第6話

文字数 698文字

 
 一時間後。

 クリフは清掃員だったが、実はエレベーターが苦手だった。
 エレベーターに乗ろうとすると、どうにも躊躇するタイミングが起こる。

 閉所恐怖症。

 重症ではないが、だからエレベーターに乗るのが苦手だ。
 毎回、降りるまでにずっと深呼吸をして自分を落ち着かせていた。

 気を張ってドアをくぐり、ボタンを押して、清掃道具と共に上層階に向かう。

 するとあろうことか、途中の階でディランが乗り込んできた。

 思わず息を呑む。

 後をつけてきたわけではないだろうから、偶然すぎてゾッとした。
 しかも苦手なエレベーター内だ。

 ディランはこちらを見ながら、無言ですぐ横に並び立ってきた。

 ――ダメだ!

 クリフは堪らず、途中に乗ってきた人と入れ替わりでエレベーターから降りた。

 そこは目的のフロアでは無かったが、上までディランに張り付かれるなど我慢できそうになかったのだ。

 彼は仕方なく、少し待ってから登ろうと考える。

 エレベーター付近で息を整えて、なるだけ平静を装いつつ、クリフは待機していた。
 幸い、行き交う人々の中に彼を訝しんでくる者は居ない。

 ……もう十一月。

 彼は気管支も弱めだが、仕事で支障がでるほど困ったことはなかった。
 だからこれは、単純にディランと閉所恐怖症のせいなのだ、と。

 エレベーターに乗り込んできた時のディランの様子が思い出される。
 獲物を見つけた動物を彷彿とさせる、ギラギラとした目つきをしていた。
 嫌な予感がした。

 この後こなさなければいけない作業は、まだたくさんあるというのに。

 急に耳の奥で、ハーネスが外れるような音を聞いた気がした――

「クリフ」

 急に、背後から名前を呼ばれる。
 
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