第7話

文字数 705文字

 声のした方に目をやると、なんとそこにサラが立っていた。

 ……嘘だろう?
 偶然が過ぎる、と思った。

「こんな短い間にまた会うなんて、凄いタイミングね」

 サラの方も驚いた様子で、自分もこのフロアに用があるのだと言った。

「私、もうすぐここで打ち合わせがあって……」

「サラ」

 気付くと無意識に、クリフは呼びかけていた。
 しかも強めの口調で。

 すぐにハッとして、戸惑う。

「……クリフ。あなた今、もしかして気分が悪いの?」

 そこでサラが、心配そうな表情でこちらを見てきた。きれいな瞳が覗き込んできて、ドキリとする。
 大丈夫だと答えたかった。

 実際、それほど問題もない。
 ただ持病の軽い発作が出かかっただけ――

 でもさすがに、機会だと思った。

 勇気を出して切り出してみる。

「サラ。こんな事を言うのはあれだと自分でも思うんだけど。……その、君も、無理しないほうが良いんじゃないかな」

「――どういうこと?」

 不思議そうに問い返される。

 クリフと彼女はべつに親しい仲ではないのだ。
 怪訝に思われて当然だろう、でも。

「君が婚約者と別れたことは、噂で聞いたよ……辛いだろうと思う。余計な口出しだとは承知しているけど、俺にも何か力になれることがあったら、いつでも頼ってほしいんだ。サラのことが心配だし、いつも君が話しかけてくれて、感謝していたから」

 まくし立てるように、一気に口にしてしまう。

 言ってから、頭に血が上るような感覚がした。
 頬がとたんに熱を帯びる。

「……!」

 情けないことに、恥ずかしくて仕方なかった。

 これまで誰かに対して、このように堂々とした物言いをした事もないはずである。

 きっと勢いが大半だった。

 しかし――。
 

 
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