第11話

文字数 809文字

 クリフが硬直していると、「偶然ね」とテーブルの向かいでサラが応じた。

 どうやら顔見知りらしい。

「カフェの外から姿が見えたからね。つい入ってきてしまったけど、邪魔したかな」

 青年は笑って言う。

 そしてサラと、束の間だけ見つめ合っていた。彼女の顔に笑みが浮かぶ。

「ええ、そうね。邪魔かもね」

 言葉と裏腹に、口調は楽しげである。

 クリフは面白くなかった。

 ――この男はいったい何者なのだろう?

 スーツを着た華やかな青年は、立ったままサラとクリフとを交互に見つつ、ニヤニヤしていた。

「えっと。僕はここに座らない方がいいのかな」

 軽やかに伺ってくるが、その言い方をクリフは気に入らないと思った。

 露骨な嫌味を感じたのだ。
 なので、

「何か用かい? 俺とサラは二人で大切な話をするために、この店に入ったんだけど」

 クリフは青年をまっすぐ見たまま、意を決して強めに言った。
 普段ならばこのような言い方はしない。

 ――でも、今は違う。

 サラがいるので強気でありたかった。

 青年はクリフの語気に気圧されたかのように、ぴたりと笑顔を引っ込める。
 サラも、びっくりしたように見てきた。

「ど……どうしたのクリフ。何か怒ってる?」

「いや、怒ってないけど。そっちの知らない彼が、なにか揶揄ってくるみたいだから」

 すると即座に青年が、

「ああ、すまない――僕は、ジェイスという。外からサラの姿が見えたんで、つい調子に乗ってしまった。邪魔をしたよ、どうか許してほしい」

 真面目な声音でそう言う。

「……俺は、クリフ。彼女と同じビルの従業員だよ」

 ぶっきらぼうに答えた。
 というのも、青年――ジェイスが、意外にも素直に謝ってきて拍子抜けしたからだ。

 何なのだろう。
 最初は皮肉な様子だと思ったのに。

 しかしクリフが不機嫌になったことは伝わってしまったらしい。

 青年は「もう行くよ」とテーブルに座る二人に別れを告げると、さっさと店の外へと出て行ってしまった。
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