第1話

文字数 394文字

 ――石油王だと思っていた婚約者が、実は石油王ではなかった。

 そうやって騙されて、失意の底に落ちた女性を「彼」は知っていた。

 早朝。

 朝の光がオフィスビルの窓ガラスに反射して、新しい一日の始まりを告げる。

 クリフ・マイヤーズは清掃道具を持って、エレベーターで最上階へと向かった。

 彼の一日の仕事は、ビルの階ごとに清掃することだ。

 最初の階につくと、彼はゴミ箱を空にし、床を掃除機できれいに掃除をする。

 壁についた汚れや指紋なども丁寧に拭き取って、次に窓ガラスをクリーニング液で拭き、光がビル内に差し込むように仕上げる。

『彼女、婚約破棄されたんだって』

 クリフの頭の中に、声が響く。

『石油王だと思っていたら、相手はただの詐欺師だったらしい』

 その噂の渦中の女性――婚約を反故にされたその可哀想な女性が誰かを、クリフはよく知っていた。

 サラ・ベネット。

 彼女に、クリフは恋をしていた。

 



 



 


 
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