第5話

文字数 498文字


  彼の姿が見えなくなると、クリフはようやく息をつく。

 まるで突風、通り魔みたいな男だと思った。
 
 ディランはこうして突然あらわれては、予想外の態度ばかりをとる。

 静かなランチを台無しにされた、と思いつつ――しかし彼に言われたことがひっかかり、不安が強まった。
 何故なら相手がディランだからだ。

 今のはただの自分への嫌がらせだとしても、もし万が一、サラに危害が及ぶことになれば耐えられないと思う。

 誰かに相談したほうが良いような気がした。

 だが残念なことに、クリフには悩みを相談できるほど親しい間柄の人間はいない。
 彼は仕事以外は、ほとんどの時間を一人で過ごすのだ。

 ……焦燥に駆られた。

 サラは個人の贔屓目なしに見ても、とても魅力的な女性だと思う。
 当然モテるだろう。

 婚約者と別れたばかりの彼女は、一見するといつもと変わりはない。
 けれど実は不安定になっている可能性もあった。

 そんな時に、だれか守ってくれる存在はいるのだろうか――。

 しかし。

 だからといって、特別に親しくもない、顔見知り程度のクリフがいきなり寄り添おうとするのも急な気がした。

 向こうからすれば、ちょっと怖いかもしれない。


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