第16話 トレーニング

文字数 1,294文字

 次の日から、子供たちへの指導は大和がやることになった。しかし、二人にとってはここからが地獄だった。

朝、六時に起床して五分で外に出る。そこからランニングを一時間やり、朝食を済ませた後、五階建ての建物に移動し、そこの階段を全力で駆け上がり、全力で駆け下りるという動作を百往復する。それが終わったら、外に出て昼食の時間になるまで腕立て伏せと腹筋をする。昼食を済ませると、エアガンを使って、的に向かって射撃の訓練をし、夕方にはナイフを持って敵に見立てた的を刺す練習をする。夕食を済ませると勉強の時間が始まり、まずは文字の読み書きから読書や計算など、個別に行う。そして九時に消灯――。朝起きて夜寝るまで休む暇がない。こんな生活を半年行なった。

時々、大和は任務に出かけていない時があったが、二人は大和がいなくても、怠ることなく真面目に取り組んだ。真面目にしなければ、ほかの団員(おとな)が大和に告げ口をし、その後、練習メニューが悲惨なことになるからだ。
一度、シュウは練習で手を抜いた事があった。その時は怜が大和に状況を報告し、任務から帰ってきた大和にしごかれた。叱られることはない。ただただ大和にしごかれた。そのトレーニングとは、大和とタイマンで戦うことだ。体格差が大きいため、シュウのパンチやキックは大和に届きもしない。しかし大和は手加減をあまりせず、シュウを殴り、蹴り倒した。もはやリンチだ。そして、翼もまたタイマンで戦い、シュウと同じ目にあった。その日は二人とも顔の形が変わってしまい、医務室の看護師から心配されるほどだった。

 秋になり、身体がたくましくなった二人は、この日初めて実銃を握った。ベレッタというハンドガンだった。一キロ近い重量、装弾数は十五発のごく普通の銃だ。
銃の仕組みは一通り学んだ。

「そういやシュウは前に一回撃ったことがあったな。まぁいいや、まずはゆっくり丁寧にやるんだ。弾が飛んだら大けがするぞ」

二人は言われた通り、ひとつづつ確認しながら動作を行なった。マガジンの弾丸を確認してセットし、スライドを引いて弾丸を装填し、右手でグリップを持ち、その上から左手をかぶせて固定、アイソセレススタンスを取り、二十メートル先にある的を目指して、狙いを定めた。

「よし、セーフティーを外して……そうだ、よく狙え……撃て!!」

衝撃音が三人の耳をつんざいた。発射の瞬間、二人の腕は上へ跳ね上がった。銃口から煙が上がった。
銃弾は空気を跳ね返しながら、的をめがけて走っていった。しかし、的には当たらなかった。

「うーん、まぁ最初はそんなもんだな」

大和は『ははは』と軽く笑って見せた。二人は緊張の反動で汗だくになった。そのあとは、マガジンが空になるまで的に向けて射撃をした。二人とも、見事に全弾を外した。

「ま、まぁアレだ。『伸びしろ』があるってことだな」

大和は二人の頭を激しく撫でた。散々的を外した二人は褒められた気分になり、なんだかうれしくなった。

 その日を境に、射撃訓練も練習メニューの一つとなった。まったく的に当たらなかった二人の銃弾は、的を掠り、的の端を撃ち……と、だんだん的に真ん中に近づいていった。
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