第12話 基地にて3

文字数 1,591文字

 やがて空が暗くなったが、部屋の電気の明かりは、それに相反するように室内を照らした。ひと眠りしたシュウは、スッキリとした表情で部屋を見回した。団長がいないことを確認すると、ホッとした。大和が、閉まっている窓から外を眺めていた。口元から、紫煙がふわふわと上へ上っていた。
何を見ているのか気になったシュウは、簡易ベッドから降りた。物音に気付いた大和が、口に咥えた煙草を指に挟んだ。

「起きたか」

シュウは頭に浮かんだ疑問を、そのまま大和にぶつけてみた。

「団長なら、あの後すぐに出て行ったぞ」

シュウは安心した。煙草の煙が、大和の指からゆっくりと昇っていくのを見つめた。そして、大きく息を吸った。

大和がシュウに顔を向けた。真剣な表情をした大和の目を見たシュウは、瞬きをすることができなかった。

「強くなりたいか」

大和の言葉に、シュウは答えることはしなかった。大和は続けて「ついてこい」と言って部屋を出ようとしたので、シュウは大和の言葉に従った。

 この建物の地下三階へ、一気に駆け下りた。途中、大和のスピードに必死についていけなくなったシュウが、足を絡ませて階段から転げ落ちていった。踊り場で止まったが、一部始終を見ていた大和は「どんくさい奴だな」と、声を出して笑った。
 だんだん変な匂いがしてきて、それは、地下三階に近づくにつれて濃くなっていった。鼻を刺激する人の体臭というか、何かが腐敗したような匂いというか、一言でいってしまえば、「猛烈に臭い」のだ。鼻が腐って落ちるんじゃないかと、シュウは思った。

 地下三階にあるのは、鉄格子で仕切られた牢屋だった。ひとつの仕切りの中にランタンが一つあり、その光は今にも消えそうで、その仕切りの中では、数人の人がうつぶせになって倒れていた。全員死んでいるように見えたが、耳を澄ませると、うめき声がそこかしこから聞こえてきた。そんな部屋が三つ連なっていた。シュウは入口で待つように言われたので、その通りにした。

 少しして、大和が誰かを押しながらその牢屋から出てきた。その人は上半身裸で、下半身は青い迷彩の戦闘服のズボンをはいていた。背はシュウより一回り大きく、ガタイも良い。手首に錠をかけられている。頭には黒い袋をかぶせてあり、その人の息遣いの荒さがよく分かった。
大和がまた階段を下りた。その人の手首にかかった錠を引っ張り、その人は重たそうな足取りで歩いた。裸足で、血がしたたり落ちている。痛々しい。シュウは、その人の少し後ろからついていった。

 地下四階。『実践実験室』と書かれたプレートが飾ってある、両開きの青い扉を、大和がゆっくりと開けた。真っ暗な空間……。と思ったら、電気がついた。青いタイルで覆われた壁と、天井には蛍光灯が等間隔で光を放つ、ただの空間だ。

 三人が入ると、大和は扉を閉めて内側から鍵をかけた。そしてその人を奥に連れていき、手首の錠を外して、頭にかぶせてある黒い袋を外した。
 青年だった。電気の光を浴びて眩しそうな表情をした後、扉付近で突っ立っているシュウを見つめてきた。黒く汚れた顔は獣のような、何かを欲しそうにしているような、または「早く殺して楽にしてくれ」と言わんばかりの表情だ。目が黒い。異様な雰囲気を身にまとった青年と相対したシュウは、怖いと思った。体の奥底から震えが沸き上がってきた。

大和はシュウの前に立ち、見下しながらこう言った。

「まずはお前の強さを見てやる。こいつを倒してこい」

シュウは大和からハンドガンを貰うと、弾が入っているかの確認をした。

「10発だ。弾が切れたら時間切れ。ほら」

大和に背中を押されたシュウは戸惑いを隠せなかった。怖い。怖い。足が重く、膝が震える。シュウの背筋にひやりとした汗が一つ、腰に向かって走っていった。

「野犬と戦っていると思えばいいさ」

この言葉を合図にしたのか、青年はシュウに向かって走り出した。

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