第7話 前線基地の生活1

文字数 2,008文字

 シュウは病院から栄養剤を貰って退院した。しばらくは旅団の中で普通の体にもどすことになった。旅団に戻る途中、嶽上と大和は食料品店に寄って栄養価の高い乳製品や肉、魚、卵、さらに野菜、果物と、缶詰など、沢山の量の食材を買い込んだ。
 食料で一杯になったSUV車のトランクを無理やり閉めた大和は手を二度叩き、助手席に乗り込んだ。そして後部座席に座っているシュウと裕介に、蜜柑をそれぞれ手渡した。シュウは裕介の真似をしながら蜜柑の皮を剥いて、一粒口に放り込んだ。一度噛んでみると、噛んだところから果汁が『プチュン』と音を立てて一気に口の中に溢れ出ていくのに驚いた。

「んん!!」
「え、お前、初めて蜜柑食ったのか」
「んんん!!」

シュウは素早く頷き、果汁を飲み込んだ。鼻の奥に通る爽やかな香りと、口の中一杯に残る、あとを引く甘みに感動し、彼は次々と蜜柑を口に放り込み、あっという間に食べてしまった。裕介は自分が持っている蜜柑を半分に割り、シュウにあげた。シュウは「ありがとう」と言って、遠慮なく食べた。

 車は市街地のはずれに設営している旅団の前線基地に到着した。翼が駆けつけてくれてみんなを歓迎してくれた。嶽上は裕介に、トランクの荷物を基地の食堂まで運んで整理するように指示をした。

「気を抜くな。ここは戦場フィールドの中だ」

大和は緊張感のない、いつもの穏やかな顔でそう言った。そういえば気がつくと、空がやけにうるさかった。何機もの戦闘機が豪速で風を裂きながら走り、近くで爆発音もした。裕介はそんなことはお構いなく、淡々とトランクの荷物を引っ張り出した。大男は力持ちで、沢山の食料品を一度に持ち運んだ。翼は裕介の手伝いをし、シュウも出来る限りの持てるものを持って裕介の後について行った。

「凄い食料。今日の料理当番がかわいそうだよ」
「今日の当番はサミュエルと元気だったな」

ニヤつく翼に対して微笑む裕介。並んで歩く二人の後ろで、シュウは辺りを見渡しながらついて行った。

「シュウ、お前はどうだ」
「え、何が」
「食い物、何が好きだ」

シュウは「蜜柑」と即答した。裕介は声を出して笑った。翼は「みかん?あんなの酸っぱいだけじゃん」と首を傾げた。

 嶽上と大和は、一色団長から、『今夜戦地に入り、例の作戦を遂行するように』と命令が出された。二人はここを出発するまでの三時間、自分のテントに戻り仮眠をとった。その間、シュウは翼に色々と案内をしてもらった。

 基地の奥には団長のテントと会議などに使う天幕、武器を保管する武器庫のテント、怪我人や病人を治療、一時的に療養する天幕とテントがあり、その手前に旅団のメンバーが休むためのテントが規則正しく設営されている。一つのテントに休むために入る人数は二、三人ほど。今回は第一旅団と第二旅団の合同での活動の為、テントは広範囲に設置してある。
広場も設けてあり、中央には大きめな天幕が張られてある。食堂だ。その食堂では、先ほど運び込んだ食材が置かれており、当番の第一の二人と第二の数人は頭を抱えていた。

 翼のテントは鐘ヶ江大我(かねがえたいが)巽英一(たつみえいいち)と一緒だ。シュウは大和と小島渉(こじまわたる)と一緒のテントに決まった。

 夕方になり、例の二人が起きてきた。眠そうに目を擦りながら大きく口を開けて人目を気にせず欠伸をしている大和と、不機嫌な顔をしながら大爆発した頭を人目を気にせず披露している嶽上は、太々しい態度にしては紺色の戦闘服をシワなく着こなし、黒のボディーアーマーの上に弾倉などの携行品を収納しているタクティカルベストを装着、両肩には、それぞれカービンとアサルトライフル を所持、太腿にはハンドガンを収納したホルスター、ブーツにグローブ、加えて脇に抱えているヘルメットとナイトビジョンゴーグルは全てタクティカル仕様となっており、その他諸々と、耳元には通信用無線機を装備している。

「重ぇ……」
「重てぇ……」
「お前はまだマシだろ。俺なんかメディカルポーチも抱えてんだぜ」
「一キロも変わらねぇじゃねぇか。俺なんて軍の期待を背負ってんだぜ」
「誰がお前に期待してんだ」
「全兵士だよ。ほらぁ、俺って強いからさ〜!みんなが俺の華麗な動きに注目するわけよ〜!」
「これ、動きにくいんだよな」
「あ、てめぇ無視したな」
「これだから夜間の仕事は嫌なんだよ」
「おい無視すんなよ」
「第二の奴らにやらせろよ。あいつらどうせ暇だろ?」
「おい!」
「あ!第二のかわい子ちゃんだ!」
「え?どこ?」
「バーカ」
「クソ!やられた!」

二人とも既に疲れ切っていた。ぶつぶつと愚痴を唱える二人に、翼が声をかけた。

「ねぇ、いつ戻ってくるの」
「日付が変わる前までには帰りたいなぁ」
「ほんとほんと」
「それ、願望?」
「うん」
「うん」

 虚な目をした二人を、翼とシュウは目を丸くして見ることしかできなかった。やがて二人は時間になったので、用意してある軍のヘリに乗りこみ、暗闇の向こう側へ飛び去っていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み