第9話 非道

文字数 2,099文字

 シュウはすっかり目が覚めたので、翼について行くことにした。テントの外は(もや)がかかっていたが、日の光のお陰で辺りが輝いて見えた。

「第二にこれを?」
「あぁ、大和から言われた」
「ふーん、その前に大和が団長んとこに行くか監視しないと」
「どういうことだ?」
「大和この間、呼ばれたのに行かなかったんだ。それで団長怒っちゃってさ……。俺が怒られたんだよ。『言ったつもりになってんじゃないのか?』ってな」
「そうか」
「そうだよ!自分が言っても、相手に伝わらなかったら、それは言ってないのと同じだぜ」

翼は少し体を震わせた。二人は大和の後をついていった。

 大和はモタモタした歩き方をしながら、団長のいるであろうテントに入っていった。翼は胸を撫で下ろしたような顔をした。それを見ていたシュウも、なぜか安堵した。そんな二人の後ろから、聞いたことがある声がしたので振り向くと、相変わらず蛇のような目つきをした団長と、半目に寝ぼけ顔の嶽上が立っていた。

「俺は『大和とイチローを呼んでこい』と言ったが?」
「あ、えっと……」

翼は団長から、コツンと頭を叩かれた。それを見ていた嶽上は「俺はその百倍の強さで叩き起こされたよ」と、悲しそうな声を出し、テントに入っていった。

一連を見ていたシュウは、翼に言った。

「『聞いてない』って言ってみたらどうだ。相手に伝わらなかったら言ってないのと同じなんだろ?」
「言えねぇよ!」
「そうか」
「そうだよ!そんなこと言ったら……」

翼はまた体を震わせた。

 シュウが第二旅団のエリアに着いたのは、それから少ししてからの事だった。大和から渡されたヘルメットは、無機的な青色をしており、側面には血の色が走るように付着し、ナイトビジョンゴーグルは、ゴーグルの部分がひび割れ、血がペンキに沈めたように赤く染まり、見た目以上に冷たい物だった。シュウは、大和が借りていたものだと推測していたが、ゴーグルの血の染まり具合を見て、首を傾げた。

 通りがかりの第二の隊員にそれを渡し、二人は第一のテントに戻っていった。その途中、翼はシュウに話した。

「俺、ここで最強の兵士になるんだ」
「最強、ってなんだ?」
「一番強い、無敵って意味だよ。俺、ニッポンで最強になりたい!それで今、ルイスの真似してんだ。あいつ凄いんだぜ」
「どれくらい?」
「そりゃあもう、こぉぉぉれくらい!」

翼はルイスの強さを両腕を左右に広げて表現した。シュウはまた首を傾げた。
 その時、少し離れたテントから『ボン』という破裂音が聞こえた。二人は顔を見合わせ、音がしたテントへ駆けた。
そのテントには既に人だかりができていた。その中には大和と嶽上もいた。シュウは大和を見つけると、すぐにそこへ駆け寄った。

「夜中に戦地で救出した研究員の頭が爆発したらしい」
「ば、爆発?」
「そういや、政権側あっちに捕まれば、頭に爆弾を埋め込まれるって噂があったなぁ。まぁ、それがアレだ」

大和が指を差した先には、白衣を赤く染めた人の形がニ体横たわっていた。辺りに異様な匂いが立ち込め、シュウと翼は思わず鼻と口を両手で覆った。だが、二人の目はその死体に釘付けだった。その死体、頭が粉々に砕け散り、四方八方に飛び散った赤黒い血液が爆発の衝撃を物語っていた。グロく残酷な現場に、人だかりが徐々に散っていったが、こういった状況は見慣れている二人の大人と、随分落ち着いた子ども二人はその死体に近づいていった。

「あらら、派手にやったなぁ」
「タイマーでも起動していたのか、それとも、遠隔操作……」
「遠隔操作っつっても、そんなに遠くから操作できるもんか?」
「タイマーが起動していたとしたら、爆弾を埋め込まれた本人が何かしら気づくはずだが、こいつら、そんな事は一言も言ってなかったな」
「『体調は大丈夫です』っつってたよな」
「もしかして、爆弾を埋め込まれた事を知らなかったとか?」

大人の二人は、テントの中を見回した。その時、シュウは異変に気付き、すぐに声を発した。

「音がする」
「音?」
「どんな?」
「高い音。キーンって」
「耳鳴りか?」

大和と翼は首を傾げたが、嶽上はすぐさま、転がっている死体の衣服を剥いだ。その死体の腹部が赤く点滅しているのを見た嶽上は、すぐさま立ち上がって声を張った。

「まずい!走れ!」

嶽上と大和は、シュウと翼をそれぞれ抱えて全速力で走り、すぐさまテントから脱出して出来るだけ遠くに逃げた。

 テントが、大きな音を立てながら煙を吹き上げ、空へ飛び上がった。

息を切らした大人二人と、目を回した子ども二人は、その巻き上がる埃と煙を見上げた。

「ビックリしたぁ……シュウ、助かったよ」
「危うくミンチになるところだった」
「よく聞こえたな……」
「え?聞こえなかったのか」

シュウはまた首を傾げた。



その後、現場には分析班や医療班が駆けつけた。嶽上は医療班に入り、大和は分析班に入ると、シュウと翼は事の顛末を団長に話しに行った。シュウは団長の指示に従い、翼と一緒になって、団員の身の回りの手伝いを行って一日を終えた。夕方になると、二人はクタクタになって、横になるとすぐに寝息を立てた。時間が経つのを早く感じた一日だった。
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