第10話 基地にて1

文字数 2,012文字

 それから数日間、シュウは前線基地で翼、裕介と一緒に働き、大人たちは戦場に向かっていった。
朝早くに起きて、翼に教わりながら武器の手入れをし、医務室でイチローの手伝いで怪我人に包帯を巻いたり、近くを流れる川で隊員の服などを洗濯するなどなど。

 あっという間に日は高く昇り、そして落ちていった。

 そして、戦地に向かう隊員達を見ていると、元気に基地を出発しても、戻ってきた時は生き残った実感が湧くのか、全員疲れ切った顔をしていた。その割には全員がちょっとの負傷か、無傷だった。重傷者の多い第二旅団と違い、流石は第一旅団だと、後々他の旅団でも噂になった。

 朝日が登る前、第三旅団の大軍と入れ替わるようにして、第一旅団は前線基地を出た。

交通手段は、装甲トラック二台にバイク三台、軽装甲機動車とSUVだ。隊員は銃火器などの武器と防具、それぞれの私物をまとめて一台のトラックに乗せて出発した。バイクに三人、軽装甲機動車にニ人、SUVに団長を含む三人、残りの隊員はもう一台のトラックに乗り込んだ。

先にバイクが一台走った。二十歳の多村祐希(たむらゆうき)だ。祐希は笑みを浮かべて手を挙げた。出立ちから、いかにも『先鋒』が似合う男だ。

「祐希は勢いがあるから、みんなを元気づけてくれるよ」

渉がトラックの中でシュウに説明すると、周りにいる隊員も首を縦に振った。そして「バカだけど」「脳みそ入ってないけど」「文字読めないけど」「大和とおんなじ匂いがすんだよなぁ」「おい誰だ、今俺の名前言った奴は?」「筋肉の事しか考えてないけど」と口々に言った。だが最後に全員が口を揃えて言うのは、

「バカなのに才能が溢れてんだよなぁ」

と言う言葉だった。

 トラックの中では眠りにつく人や、タバコを吸って落ち着いている人など、それぞれのやり方でトラックの中を過ごしていった。戦闘服を脱ぎ、普段着でいる彼らの表情は非常にリラックスしており、穏やかな空気が漂っていた。シュウと翼はゲームに夢中だった。クリアする毎に交代して進んでいった。翼からアドバイスをもらい、翼にアドバイスをしながら、二人が操るキャラクターはレベルアップを繰り返していった。

時折車は止まって補給と充電をしながら、目的地に着いたのは昼過ぎだった。

 そこは、基地だった。

有刺鉄線が張り巡らされた鉄のゲートが開くと、車はますます奥へ進んだ。茶色い高い壁が敷地を囲っている。その間、車庫には大きな車両や戦車が並んで格納されており、幾つものコンクリート建造物が連なっていた。グラウンドに射撃場、体育館と、一番奥には病院まであった。ここで全てが揃うほど、生活には困らない場所のようで、一つの町が詰め込まれた所だ。

 トラックは寮の前に着いた。全員荷物を持って降りていき、他の荷物も下ろして去っていったトラックやバイクと車両は、車庫に走っていった。
シュウは翼に連れられて寮の中に入った。どこの部屋を取るかは早い者勝ちのようで、皆は二人ペアとなり、早足で部屋を探して空いている部屋へ吸い込まれるように入っていった。

「モタモタしないで、五分後に寮の入り口に集合しよう」

小走りで急ぐ二人は、すぐ近くに部屋を見つけて荷物を投げ入れ、すぐに寮の入り口に向かった。
二人がついた頃には、ほとんどの隊員が集まっていた。副団長の巽英一(たつみえいいち)は声を張った。

「今からサバイバルゲームするから、参加する奴は戦闘服に着替えて此処に集合な!」

大人たちは歓喜の声を上げながら走って各々の部屋に戻った。

「翼は見学だ。お前は……名前なんだっけ?」
「シュウ」
「あぁそうだった。シュウは奥の病院に行け。そこで団長達が待ってる。走っていった方がいいぞ」

副団長が先の建物を指さした。シュウは返事をして翼と別れた。

 道を走り、芝生を横切ってカーブを左に曲がって長い坂道を駆け上がった先に病院はあった。寮からの距離は一キロ程。息を切らして自動ドアを抜けると、ロビーに団長と嶽上がソファに座っていた。シュウは初めて団長の顔をハッキリと見ることができた。今まで薄暗いテントの中でしか見たことなかったので、無造作な顎髭と蛇のような目つきしか印象がなく、シュウ自身、団長を怖い存在だと思っていたが、この日は違った。蛇の様な目は変わらないが、髭は綺麗に剃られ、髪は爽やかに短く整えられていた。戦闘服ではないせいか、雰囲気が全く違い、柔らかく感じた。

 嶽上は、いつもの通り、色白で、大きく見開かれた目に(はしばみ)色の瞳。それに合わせて高い鼻を持ち合わせたその顔は、まさに『目鼻立ちがはっきりした』顔だ。だが妙に威圧感を感じる。焦茶色の髪は少しうねりながら首の付け根あたりまで伸び、毛先は外に跳ねていた。

 シュウの存在に気づいた団長と嶽上は立ち上がった。団長が手招きをしたので、シュウはそこまで走っていった。

「走ってきたのか」
「は、はい」

団長が少し笑ってロビーの奥に向かって歩き出した。嶽上とシュウもそれに続いた。
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