第3話 第一旅団3

文字数 3,264文字

「これで何人集めたっけ」
「シュウを含めて八人」
「これだけ集めれば任務を遂行できる」
「馬鹿言え。今回は即戦力になる奴がいない」
「えっ、じゃあまた少ない人数で任務をこなすのか」
「そうなるな」
「えー、やだな」
「嫌なのか」
「だって最近の敵兵強くないか。金属の装甲をまとった兵士、あれは一体何なんだ」
「前線にいた変わった兵士のことか。最近開発が目覚ましいサイボーグってやつだろう。噂には聞いたことがある。生身の体を機械に替えて筋電とかの信号を読み取って体を動かすらしい。でもこの前のは、どっちかというと、体内に埋め込むインプラントなサイボーグよりも兵士の身体機能を強化するパワードスーツってところじゃないか」
「分からん」
「外殻さえ外せば中身は生身の人間だ。そこさえ何とか対処できればいい」
「てことは、次やる時は対物ライフルでやっちまえばいいな」
「と思うけど。これからはもっと強い兵士と戦うかもな。インプラント型のサイボーグなんて、近い将来あり得る」
「まじかよ」
「と思うけど」
「お前、最近その言葉使うよな」

嶽上はフッと笑って窓の外を見た。隣ではシュウが横になって時折襲ってくる吐き気と戦っていた。大和はタバコに火を付けて口に運び、ゆっくりと吐き出した。

「タバコいる?」
「あぁ」

大和は嶽上にタバコが入った箱とライターを投げると、嶽上は片手でキャッチし、慣れた手つきでタバコを吸った。一連の動作には無駄がなかった。窓を少し開けてそこから灰を叩き落とし、また口に運んだ。

 車は人気の少ない道をスピードを出して走った。辺りに明かりなどはない。なので車の後ろを猛スピードで追ってくるジープがよく目立った。

嶽上はトランクに移動しアサルトライフルを手にした。マガジンを入れてボルトハンドルを引いた。コッキング・リロード音のジャキッという音は、シュウの顔を緊張へと誘った。嶽上がトランクから戻り、右の窓を開けて吸っているタバコを投げ出すと、後ろから弾丸が飛んできた。その弾丸は見事にタバコに命中した。

嶽上は大和に指示をした。大和は指示に従ってアクセルを強く踏み込んだ。車が左右に大きく揺れ動くのを、シュウは耐えるしかなかった。

「シュウ、伏せてろ」

シュウはよろけながら、座席の足元にうずくまり、頭を丸めてその上に右手を乗せた。
ジープとの距離と、道を猛スピードで回るタイヤの音を見計らい、嶽上の冷静な「NOW」と言う声に応えるように大和はブレーキを強く踏み、ハンドルを右に切ると車は滑りながら反転した。SUVが横を向いた時、嶽上は引き金を引いて銃弾をを撃ち放した。後ろのジープは一台。SUVが回転した事によって急停止。銃弾はジープのフロントガラスを粉砕し、運転席と助手席を襲撃した。激しい銃声はすぐに鳴り止んだ。大和が操るSUVはジープとぶつかる寸前まで停止し、そのタイミングを見てギアをバックに入れて下がった。ジープと距離ができるとまた停止。その後嶽上が車から降りてライフルを肩に構えながら中腰でジープに近づいていった。大和も車の外に出て、ハンドガンを構えてジープに近づいた。ジープから両手を上げながら手できた人物は、さっき嶽上達を襲撃した五人の中の一人だった。その人は右腕を負傷しているようで、服の上からは赤い物が滲んでいた。

「待ってくれ。俺は敵じゃない」
「敵じゃないなら何だ」
「これを……」

その人は右手は上げたまま、左手を胸ポケットに入れて、ある物を掲げた。

「落ちてた」
「あ、嶽上(ニカ)の」
大和(ジャック)!」
「あんたらのじゃないのか」

嶽上は自分の首元を摩ると、鋭い眼光のまま彼女(・・)の元へ慎重に近づき、ある物を取ってライフルを構えたまま後ろに下がった。

「それ何」
「教える義理はねぇよ。……悪かったな、ライフルぶっ放して」
「俺を第一に連れて行ってくれないか」
「……は?」

嶽上は黙ってしまった。

「おい女、調子に乗るなよ」
「女じゃない、俺は男だ」
「どっちでもいい。お前実践経験あんのか」
「さっき経験した」
「……は?」

大和も黙ってしまった。

 嶽上と大和は銃の構えを解いた。それを見た()も両手を下ろした。大和は車の中で一連を見ているシュウを呼び寄せ、()が何者か聞いた。名前は、清瀬なお。第五の中でも一目置かれる存在で、長距離からの狙撃を得意としている。見た目は女の体つきだが、中身は男の子そのもので、普通に男性隊員とタイマンで喧嘩することもよくあると言う。歳は十五歳。

それを聞いた大和は嶽上を呼び寄せ、シュウに()を見張るように言った。その時シュウは大和からハンドガンを渡された。「おかしな動きをしたら、当てなくてもいいから引き金を一度だけ引け」と言われたシュウは、そのハンドガンにセーフティーがかかっているのを確認するとそれを外して、なおに近づいて注視した。

「何だ、お前に俺が撃てるのか」
「撃てない」
「じゃあただの飾りじゃないか」

なおは声を出して笑った。そして続けて言った。

「安心しろ。変なことはしない。今何かしたところで、俺に勝ち目はない」
「腕……」
「は?」
「痛くないのか」
「痛いに決まってんだろ。早く弾を取り出した方がいいんだろうけど、アレを届けるのが先だと思ったんでね。たぶん、何かの形見じゃないか」

シュウは「カタミ」が分からなくて首を捻った。「イテテ」と言うなおは右腕を左手で庇った。よく見ると腕からの出血は止まっていない。シュウは二人に知らせる意味でハンドガンを光り輝く星空に向けて一度だけ引き金を引いた。その音は意外にも大きく、なおと、引き金を引いた張本人は思わずしゃがみ込んでしまった。後ろで話し込んでいた二人は自分の銃をなおに構えた。

「怪我してる。血が止まらない」と叫んだのはシュウだった。それを聞いた嶽上はなおに駆け寄り状況を確認。前腕に弾丸が入り込み骨の辺りで留まっていた。「どの時点のやつだ」と嶽上が聞くと「さっき、佐藤団長のところ」と返事があった。大和はすぐに救急箱を持ってきた。嶽上は自身の手を消毒し、ゴム手袋をはめて、止血帯を用いてなおの二の腕を縛り上げ、アルコール綿で患部を広く拭った。

「生憎麻酔を切らしてる。これを噛んで我慢しろ」

嶽上はなおの口にハンカチの様な広めの布を口の中に押し込んだ。大和はなおの腕をガッチリ掴んで動かない様にした。個包装されたメスとピンセットをそれぞれ取り出して包装を外し、なおの患部に充てた。その直後、なおは上を向いて目を瞑り声を上げた。抵抗するなおの腕を、大和は離さなかった。その様子を嶽上の後ろから、シュウは顔色を変えることなく冷静に見ていた。

「あー出てきた」
「おい女、動くなよ」

なおの張り手が大和の後頭部を直撃したと共に、大和の口から思わず「イテッ」と声が漏れた。

メスで患部を切開してピンセットで弾を取り出した。そして嶽上は「よし」と言ってなおの口から布を取り出した。その時間は短かったが、なおは全身から汗を噴き出し、肩で息をし、涙を流していた。

処置はまだ終わっていない。患部の上から滅菌ガーゼを当てて包帯で固定した後、テーピングテープでキツく圧迫した。大和は止血帯を外して腕を解放した。

「なお、とか言ったな。怪我した時に先にやることは何だと思う」

嶽上の問いになおは「知らない」と言って、顔を横に逸らした。

「止血だ。体重の大体八パーセントが血液で、その内の二十パーセントを急速に失えばショック症状が出始める。三十パーセント失えば命が危なくなるし、五十パーセント失えば心停止するんだ。計算してみろ」

なおは下を向いてしまった。嶽上は話を続けた。

「男女でも違う。女の体重が五十キロだったら……」
「俺は男だ!」
「体は女だ!」
「……」
「お前な、気が強くてガッツがあるのはいいけど、自分の分際を弁えられない奴に第一(うち)は務まらねぇよ。でも、お前の射撃の技術は認める。よく俺のタバコを叩いたな。感心した」
「本当か」
「あぁ、次に何処かで会うことがあったら、引き抜くか考えてやる。それまでに技術を磨いておけ。いいか」

 なおは首を縦に振った。
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