第4話 第一旅団2

文字数 2,070文字

 なおはジープに乗り、大人しく帰った。嶽上は辺りを片付けると救急箱を持ってゆっくりと立ち上がり、SUVの助手席に向かって歩いた。大和はその場にへたり込んでいるシュウに駆け寄った。

「立てるか」と差し伸べられた大和の手を、シュウはしっかりと握った。そして力を込めて立ち上がり、こう言った。

「カッコ良かった」

彼は立ち上がる際に空の薬莢を拾い、それをただただ眺めた。その目は、少ない光量の世界の中でも特に輝いた。そう、星空の銀河に負けない程にーー。

 大和はシュウに声をかけた。大和は車の運転席、シュウは後部座席に座った。車はUターンをして、目的地に向かった。その道中、シュウは貰ったパンを少しずつかじって食べた。少し噛み応えはあるがほんのり甘くも香ばしいそのパンは、次々に口に入れたくなる美味しさだった。シュウは本気でそのパンに、時間がかかりながらも頑張って食らいついた。
「もう大丈夫だな」と嶽上は安堵した。大和はバックミラーでその様子を見ると、少し笑った。

 平坦な道を走り続け、夜明け前にそこに着いた。満腹で眠りについていたシュウは嶽上に促されて目を覚ました。そこは宿営地だった。

 入り口には守衛が二人立っており、車は守衛の前で一度停止した。大和が窓から顔を出すと守衛は中に入る様に促した。どうやら顔パスのようだ。それから少し車を進めると、テントや天幕が規則正しく張られており、大小様々な車両が規則正しく止まっていた。奥にはヘリコプターが間隔を開けて三機止まっていたが、そのうち一機はプロペラが激しく回転していた。シュウは口を軽く開けたまま、周りを見渡した。やがて車はある所に到着。三人は車から降りて、大和と嶽上は武器やら救急箱やらを車からおろした。すると、ガタイのいい一人の男が大和達に駆け寄ってきた。

「お前ら、昨日第五の基地に行ったか」
「んー、行ったっけなぁ」
「夜中に佐藤団長から第一うちの団長に連絡があって、それからずっと機嫌が悪いんだ。二人が着いたらすぐに連れてこいって怒鳴ってたぞ。お前ら何したんだ」

二人の顔から血の気が引くのを、シュウは見逃さなかった。

「とにかく、今すぐ行った方がいい。遅くなるとますますヤバくなるぞ」

二人はガタイのいい男の先にある、奥のテントを眺めた。周りのテントより大きめの天幕だ。

「……大和」
「何だ」
「俺は今日、お星様になるかもしれない」
「良かったじゃん。お前憧れてたろ、お星様」

二人は深くため息をついた。シュウは歩く二人の後ろを着いて行った。二人のブーツから吐き出される足音は、二人の気分を映し出したように重く聞こえた。

 宿営地の奥にある天幕の前に着いた。二人は深呼吸をして天を仰ぎ見た。そして、両肩を後ろに一回転させ、嶽上、大和、シュウの順番で天幕の中に入った。
薄暗い天幕の中にテーブルが一つ、その上に置かれたランタンから、暖かそうな光が揺らめいていた。

「遅かったなお前ら。待ってたぞ」

 ランプの奥から顔が見えた。気の立ったような目つきをしており、髭を無造作に生やした第一旅団の団長が大和と嶽上を凝視した。誰が見ても悪人にしか見えない風貌だ。

「イチロー、今俺はどんな風に見えてる」
「すげー怒ってる」
「大和、何で俺がこんなに怒ってると思う」
「佐藤団長から連絡が来たから」
「そうだ。あのデブから『隊員が三人殺された』と連絡が来た。他に四人の隊員が負傷、建物内でもボヤ騒ぎが起こって、ジープが一台壊れたそうだと。何か心当たりはあるか」
「大和が一人殺した」
「イチローが五人を撃った」
「大和が一人半殺しにした」
「イチローが車を壊した」
「壊してない。フロントガラスを割っただけだ」
「俺だって、ちょっと触っただけで死んだだけだ」
「味方を殺してるのは間違いないんだな」
「はい」
「はい」

第一旅団の団長、一色泰和(いっしきやすかず)は大和の斜め後ろに立っているシュウの存在に気づき、覗き込み、その子を睨みつけた。

「第五から引き抜いたのか」
「あぁ」
「こんなガキをか」
「あぁ」
第一(うち)は慈善団体じゃないんだぞ。しかも痩せ細って怪我してる。ここで面倒を見るほどの価値があるのか?ん?」
「こいつは磨けば光る玉だ。体力はないが銃の基本的な操作や立ち回り、近接戦闘のセンスはある」
「センスがあるなら何で腕を折ってるんだ」
「それは第五の連中に逆恨みされてリンチされて……」
「リンチされてた?弱えじゃねえか」
「それを大和が救った。隊員が死んだのは事故だ」
「事故だと?」

一色はテーブルを両手で思い切り叩き、その反動を使って立ち上がった。ランタンがテーブルを叩いた反動で跳ね上がった。ランタンの光がより揺らめいた。

「事情はよくわかった。イチローはここに残れ」

一色はゆっくりとシュウの方へ歩いた。見すぼらしい格好、触れば埃が舞うような髪型、細い体、痛々しく血が滲んだ足先ーー。前から、後ろから、舐め回すように観察した一色は、その子の前に立って見下しながら話し始めた。

「足引っ張るような事したらすぐに始末するからな」
「はい」
「……大和、連れていけ」
「はい」

二人は出て行った。
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