第5話 第一旅団5

文字数 1,686文字

 団長の元を離れた大和は、シュウを連れて宿営地の中を歩いた。頭上ではヘリコプターの機動音が鳴り響き、目の前を、カーキ色の戦闘服を着た兵士が急ぎ足で横切った。焦った顔をした兵士に、大和は声をかけた。

宏樹(ひろき)

声に気づいた大内宏樹(おおうちひろき)は、握り拳を高く上げ、颯爽と二人の前からいなくなった。

「戦うのか」
「あぁ、この先に敵の基地がある。今回は、通常戦闘を頼まれてここに来てんだ」

 シュウはまた頭を傾げた。二人はまた歩き始めた。右に左に曲がり、大和が一つのカーキ色のタープテントの前で足を止めた。テントの前にはシュウと同じくらいの男の子が、何やら小さな黒い板を両手で持ってそれを凝視していた。大和が「《翼つばさ》」と言うが、その子は聞こえていないようで、その板を見続けた。

「つーばーさー」
「あ、はい」

大和の声にハッとした室戸翼(むろとつばさ)は大和に顔を向けた。その子の顔を見てシュウは驚いた表情を見せた。その子の瞳が空のように青かったからだ。

「こいつに服を譲ってくんないか。何もないんだ」
「いいけど、誰」
「お前の友達、連れてきた。シュウってんだ」
「シュウ?何処にいた子?」
「第五から。ほらシュウ、ご挨拶」

シュウは翼の瞳を珍しそうに見つめながら、「よろしく」と言った。

「目、青いんだ」
「何だ、お前も俺を嫌うのか」
「違う。綺麗だなって思って、羨ましい」
「えっ、羨ましいの?」

次は翼が驚いた表情を見せた。そして、照れ臭そうに「アリガト」と下を向いて答えた。翼は後ろにある自分の荷物から、洋服一色と靴、靴下を差し出した。シュウはそれを受け取ってお礼を言い、その場で着替えようとすると、大和が「着替える前に風呂行くぞ」とシュウを連れて行った。翼は持っていた黒い板を後ろに放り投げ、「俺も行く」と、大和たちについて行った。

 ーーシュウの体を見た二人は驚いた。

「ガリガリじゃん。その足でよく歩けるね」
「確かに。これがイチローが言ってた『栄養失調』ってやつか」

宿営地の簡易的な風呂場でシュウの体を興味津々に見る二人は、シャワーを浴びてさっぱりしていた。シュウは翼に介助されながら何とか体を洗った。シュウにとって湯船に入るのは初めての事だ。関節と肋骨が浮き出たシュウの体付きは、まるで骸骨に皮を被せたようだった。赤い発疹が所々にあり、手足の先は傷だらけで痛々しく見えた。

「あの、『風呂』って冷たいのか」
「熱いよ」
「いいから入ってみろ。案外良いもんだぞ」

素っ裸の三人は湯船に足を入れ、湯加減を確認した。大和は何事もないように普通に入っていき、子どもの二人は「熱っ」と騒ぎながらも熱さに耐えながら肩まで浸かった。話題はシュウに向けられた。

「外人とか見た事ないの」
「ない。こんなに青い目をした人は初めて見た」
「ふーん、でも俺はニッポン人なのに目だけは青いんだ。イチローのほうがどっからどう見ても外人じゃないか」
「暗くてよく見えなかった」
「ここは外人が数人いるからな。すぐに慣れるんじゃないの?」
「そうだそうだ。同じ人間なのは変わりないさ」
「はぁ」

 その時、隣の更衣室から嶽上の声が聞こえてきた。やがて嶽上が素っ裸で風呂場にやってきた。首には、昨日なおが持ってきたペンダントが掛かっていた。

「俺が何だって?」
「シュウが外人を見たことが無いって」
「ふーん、珍しいな」
「俺の目が青いからビックリしたって。それならイチローの方がもっと外人だよな。シュウ、よく見てみろよ」

嶽上とシュウの目がバッチリと合った。翼が「どうだ」と聞くと、シュウは「首」と呟いた。

「首、絞められた?」
「えっ、マジで?」
「イチロー、マジか」
「……お前、よく見てるな」
「お前、今日は何て言われたんだよ」
「んー、えーっと、いやぁ、『目つきが悪い』って殴られた」
「それで?」
「『目つきを良くしなきゃ』って思って、目をパチクリさせて見せたら」
「そしたら?」
「『舐めてんのか』って、首絞められた」
「お前、結構馬鹿みたいな理由で説教されるよな」
「全く理不尽な話だ。俺はそんなに目つき悪いか」
「……団長よりはマシだと思うけど」
「だよな?」

嶽上は首を傾げながら湯船に入ってきた。
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