第10話 将来の夢

文字数 1,465文字

 子どもの頃に考えたこと。
 将来に、自分がなりたいもの。

 自分でも驚くような話がある。
 小学校の卒業文集だったかと思うが、自分が将来になりたいものを書くことになった。
 私が書いた将来の夢。
 笑って下さい。
 「笑って下さい」と私から頼まなくても、聞いたひとは笑うと思う。
 私は『文学者になりたい』と書いた。
 思い出すと、自分でも何と言えば良いのか分からない。夢は大きいほうが良いとは言うけれど、思い出すとやはり恥ずかしくなる。「文学者」と答えたのは、多分に思いつきだ。そこに明確なものはなくて、何か書かなくてはと焦り、とりあえず「文学者」にしたのではないだろうか。
 何にしても「文学者」と書いたのはおそれ多いことだ。身の程知らずと言うのだろうか、自分で自分に驚いてしまう。

 小学生の頃から私はなにかと気まぐれだった。
 将来の夢にしても、そのあとからは、看護師さんやジャーナリストなどに変わったのだから。
 ほんの少しだが女優に憧れた時期もあった。女優になりたいというより、これは華やかな世界への憧れだったような気がする。また、テレビドラマや映画に感動して、その主人公である美貌の女優に惹かれたのではないか。
 他に憧れたのは、銀座の一流クラブのホステス。
 何かで読んだ。出勤前に新聞を幾つか読まれるらしい。もちろん、読まれるのは経済などの記事であった。お客様との会話にはいろいろと教養が必要なのだと、そんな意味のことが書いてあったと記憶している。素晴らしいではないか、美貌と教養を兼ね備えているとは。
 私が二十歳ぐらいだったと思う。北海道だったと思うが、そこで花嫁さんの募集をしていた。それに私は乗り気になった。母親にも話した。北海道へ行って、農場のお嫁さんになりたいと。多分、母親は本気にしてなかった。この話、父親に笑いながら言っていた。私もすぐに気が変わった。やっぱり、この話も単なる思いつきだったのだろう。
 結局は、短大の英文科を出て就職した。
 いわゆるOLだ。本当は国文科に行きたかったが、就職に有利だからと英文科を受験した。

 申し訳ない。
 記憶がはっきりしないので「~だろう」や「~のようだ」ばかりの文章となっている。自分でも良い感じはしないのだが、間違ったことを言い切るのはもっと嫌だと思うのだ。

 いろいろと「将来の夢」を見た私だったが、平凡に恋愛して結婚、現在に至っている。
 今はパートもやめて、専業主婦となった。家事仕事よりも昼寝とネットサーフィン優先の日々。これは幸せでしょうね。
 今から七年前ほど、mixiに夢中だった頃の話。
 老後について投稿したことがある。
 自分が考える老後について、こんなふうに書いた。
 『年齢ではなく、仕事を辞めたときから老後が始まると思う。仕事をしていなくてお金もないから、自治体の図書館で無料の本を借りてきて読むのだ。そんな慎ましくて静かな生活となる』
 子どもだった頃は「文学者」になりたいと書いた私。
 「文学者」になることは到底無理だったが、このmixiへの投稿を思い出すと、読書への意欲は少しだけ残っていたようだ。老後の生活となった今、私は読書をしていないが、これはこれで嬉しいことだと考える。子ども時代に見た「将来の夢」が完全に消えてしまうのは哀しいこと。「将来の夢」を見ていた子ども時代の自分を、この年齢になった今の私がしみじみと思うのだから。

 と言いながら、今夜も私はネットサーフィンするだろう。
 もっともらしい話をしながら、ダラダラするのが私の常。これはもう、一生なおらない。
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