第5話 思い出のカップラーメン

文字数 1,202文字

 寒くなりましたね。
 我が家の庭にも赤い椿の花が咲きました。

 私は冬が好き。冬に向かう秋も、やはり好き。
 寒さに震えながら道を歩く。若い頃はそれが楽しかったな。そこに強い風に吹かいてくると、「おお、寒くて快感」なんて思ってたわ。耳が切れそうな冷たい風ね。そんな厳しさも魅力だったのよ。
 今の私は、それらは全て無理。暖かい部屋から出たくない。特に用事がない限り、今の私は寒い日には外出しない。昔の私は元気やったわ。
 う~ん、いっそ常夏の国へ移住してみようか。いや、常春の国のほうが過ごしやすいなあ。暑いのは苦手よ。常春の国なら、やっぱりマリネラかな。一年中が春の季節なら、体にも良いと思うし。

 春は出会いと別れの季節。別れは味わいたくない。まあ、別れて良かった場合もあるけど。
 何十年前の辛い別れ、たまに思い出すと苦しくなるのよ。別れた相手はひとだけではない。故郷や学校、面白かったテレビ番組、好きだったお菓子など。忘れられない。
 「忘れられない」と書いたけど、それは正しくない。年々、記憶力がだめになるみたいね。懐かしいと言いながら、何でも忘れていくのだから。忘れる気はないんだけどね。そう、細かいことを忘れていく。思い出せるのは大まかなことばかり。

 カップラーメンの思い出を書きたかった。寒いときに思い出すと心が温かくなる。
 高校生のときに初めて見たのよ、カップラーメン。日清のカップヌードルだった。たしか醤油味。
 あの日、クラブで帰りが遅くなっていた。私はESSに入っていたのよ。クラスの仲良しは演劇部。一緒に帰っていて、彼女が私に買い物に行こうと言うたの。お菓子とかパンね。学校の近くの店に入った。その店は覚えていない。あのときに行ったのが最初で最後だから。演劇部は忙しかったから、帰りはお腹が空いていたと思う。けど、ESSはお茶飲みやお喋りばかりしていたから、遅くまで活動なんてしなかった。私はさっさと帰っていたよ。あのときは、たぶん文化祭で忙しかったのよ。英語劇をするから、練習やらセット作りやらで真面目に活動していた。
 そう、そのお店で食べたのがカップヌードル。演劇部の友達はお店のひとと仲良くて、お湯をもらってその場で食べていた。そんなわけで、友達と一緒にいた私もいただいたの。
 びっくりした。カップラーメンは初めてだったし、透明なフォークがついていたから。そのフォークを使って食べるのが、とても新鮮だった。もちろん、熱くて美味しかった。
 店先で友達と食べたカップヌードル。高校生活の楽しい思い出よね。

 今はカップラーメンを思うように食べられない。食べたいけど、体がついていかないの。歳なんやろね。若いときとは食事の好みというか、食べ方が変わった。揚げ物は少しで良いし、和食を食べやすいと思うようになったわ。
 少しは食べている。ただ、あっさりタイプしか食べられないの。それって寂しいよねえ。
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