第6話

文字数 894文字

<湖の畔の小屋・18時30分>

外はとっぷりと暗闇に覆われて、木々の影が空に濃く広がっている。
妖精はランタンの明かりを灯した。

「ああ、夢中で話していたら・・暗くなっちゃった。どうしよう」
妖精は、少し不安気に言った。

「もう少し俺は、君の国の話を聞きたいな。とてもおもしろい。
いろいろな国をまわったが、一番ヘンテコだ」
オルロフは笑いながら、ランタンに照らされている妖精を見つめた。

この妖精は本当にかわいらしい。
ちょっと変だけど、そこも魅力的だ。

「私も・・こんなにグスタフの人と喋ったのは初めてだわ。
遠くで見たことはあったけど。あなたがうらやましい。
ああ、私もいろいろな所に、自由に行ってみたい」

妖精はテーブルに頬杖をついて、グラスの縁を指先でなぞった。

オルロフは思った。
この妖精の笑顔が見られるなら・・どんな事だって・・・

「君さえよければ、俺が連れて行くよ。美しい場所もたくさん知っている」
妖精がチロリと視線を向けた。
「本当に?」
「誓うよ」

妖精の関心を惹きつけることに成功したので、オルロフは続けた。
「それに君の気持ちもわかる。
全然知らない相手と・・つまり・・交尾をしなくてはならないなんて俺だって嫌だ。
義務っていうのがおかしいよ」

「・・・あなたっていい人ね」

妖精は、ほころぶ花のように微笑みを見せた。
本当にきれいだ。
彼女のまわりは光が乱舞しているように見える。
金の髪がろうそくの明かりで、きらきら宝石のように輝く。
オルロフはうっとりと見とれた。

「みんな言うのよ。当たり前の事だって。
でも、これからの事を考えると・・不安で・・不安を紛らすためのお薬なの」
妖精は薬草リキュールの瓶を抱きしめた。

「お母様が選ぶ相手がどんな奴なのか・・まだ、わからないし」
妖精は首を横に振ってから、薬草リキュールをグググと飲んだ。
 
その様子を見て、オルロフは言った。
「そんな時は俺たちの国では、<ハグ>をするんだ。
怖い時とか、心配な時。親は泣いているこどもによくするんだ。
あと、久しぶりに会った友達にもするね。家族や親せきでも、挨拶のひとつだから」

この妖精は異界の住人だ。
自分の国のやり方が、通用しないかもしれない。
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