第15話

文字数 743文字

<湖の畔の小屋・5時・早朝>
朝方、いつもの鳥のさえずる声で、妖精は眠りから現実に戻された。
頭がぼんやりしている。
そう、薬草リキュールを随分と飲んでしまった。

誰と?
「え?・・・・」
ベッドで抱えられている自分。
隣で眠っているのは、あの旅人。
オルロフと名乗ったその人は、ぐっすりと眠りこんでいる。

「やばっ!」
心臓の鼓動が早くなった妖精は、その腕を何とか抜けて、ベッドから遠ざかった。
自分は、昨日と同じ服を着ている。
ベッドで寝ている男も、服を着ている。

何かあったのか?
たぶん・・・二人とも酔っ払って、寝ていただけなのだろう。
妖精は足音を立てないように、ベッドまで戻り、オルロフの顔を確認した。

その首に光るもの、金のペンダントが見えた。
大きなサファイアが中央にはめ込まれ、周囲をダイヤと真珠で紋章を形作っている。
グスタフ皇国の紋章。
国王の継承者が持つペンダント。

妖精はひゅっと息を飲み、もう一度オルロフの顔を見た。
そして、唇をかみしめた。
すぐに何とかしなくては・・・

「これは一夜の夢、かなわぬ夢、残酷な夢」
<君を連れて、ここを出よう>
オルロフのあの言葉、二人で紡ぐ未来への翼は、最初から折られていたのだ。

妖精が急いで寝室から出ると、暖炉の火がまだ残っていた。
薬草リキュールの空瓶とグラスが、テーブルの上で転がっている。
急いで暖炉の火に灰をかぶせて始末をした後、籐かごに空瓶とグラスを突っ込んだ。


昼過ぎ、オルロフは目が覚め、周囲を見回した。
大きなすずかけの木の根元で、寝ている自分。
服も着ているし、荷物もある。

「エリーゼッ!!??」
周囲を見回しても、小屋も湖も何もない。
すぐ脇の道、その向こうの土手で、羊たちがのんびりと草を食んでいる。

すべては跡形もなく消えていた。
夢のように・・いや夢だったのか?
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