第10話

文字数 1,363文字

<湖の畔の小屋・20時>

妖精は明らかに興味を持っている。
もう少しで、罠に入るが失敗はしたくない。
豚に変えられたら、俺はどうなる?!

オルロフは慎重に言葉を選びつつ言った。
「・・キスにはいろいろな種類がある。
家族の挨拶とか、親は子どもに寝る前に<おやすみ>のキスをする。ハグと同じだ。」

「でも・・大人になると本当に好きな相手とは、・・その唇を合わせる・・
舌も使って・・・そして感じる・・味わうんだ」
妖精は不思議そうな顔ををした。
「へーぇ、変な事するのね?グスタフの人って」

いやっ!!君が違う!!君のほうがおかしい!!
オルロフは心のなかで絶叫していた。
それでも、この妖精を味わいたい、味わいつくしたい!
たとえその代償として、豚に変えられても・・・・

オルロフは妖精の手を取り、自分の唇に当てた。
「エリーゼ、君をつれて明日ここから出よう」
オルロフの瞳は妖精にまっすぐに向けられた。

「俺のすべては君のためだけにある。・・誓いのキスをしよう・・」
妖精はオルロフを見つめた。やはり、美しいアメジストの瞳で。
薬草リキュールのせいで、少し焦点があわないが。
「そんなことを言ってもね、私たちはさっき出会ったばかりなのよ。
私はあなたの事、よくわからないし」
確かに正論だ。
が、恋は一瞬で落ちるもの。

オルロフは低い声でささやくように言った。
「君は俺にとって運命の人なんだ。」
「運命の人って、何をする人なの?」
妖精はまっすぐにオルロフを見つめた。

そんなに見つめられてはキスできない。ドキドキするし・・恥ずかしい・・
それにまた説明をしなくてはならないのか?
しかも、キスの本題からはずれてしまったではないか!!

「運命の人とは…その人のそばにいたい。笑顔を見たい。
その人のためなら、死をもいとわない。深い絆を感じることができる」
「ふーーーん」
妖精はうなだれて、考え込んでいる。

「絆をつくる・・って、結婚相手と一緒のベッドに寝ることでできるって。
そう聞いたのだけれども」
ああ!初夜・・そっちに話が飛んだのか?
オルロフの戸惑いを無視して、妖精は続けた。

「ベッドで一緒に寝ただけで、作れるものなのか、私は疑問に思うの」
小首をかしげて、オルロフに同意を求めている。
「それによく知らない人と、同じベッドに寝るのは嫌だわ」
まったくもって、この目の前の妖精はわかっていない!!
「それも、3人とね」

妖精はしらっと、当たり前のように言った。

3人・・・?

なななななんと、爆弾発言が飛んできた!
オルロフの目はテンになった!!
脳の中は「この妖精が3人で、寝室でイタす状況」がモクモクわいてきて、制御できない。

「ああ、えっ?3人って・・・どういうことっ?!!」
食いついたオルロフの体が、グンと前かがみになった。
妖精は、ちょっと不満そうに唇を尖らせて、

「ああ、3人っていうのはね、私は夫を3人、もたねばならないの。
魔女の国は、うちと、アシュケナ、バリッシュ、ゴルテアの4つの家系にわかれるのだけれども、それぞれの家系は・・・
毎年、当番の家系が花嫁を、残り3家が、花婿を出すしきたりなの。
だから妻1人に、夫が3人という形になるわけ。
当番は持ち回りで、今年はうちが花嫁を出す順番なの。
で、それで運悪く、私があたっちゃって・・・」

おいおいおい・・・それじゃあ自治会の役員当番の選出じゃないか・・・






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