第1話

文字数 874文字

<湖のほとり・秋・15時>

オルロフは道に迷っていた。
いつの間にか、道をはずれ森に迷い込んでしまった。
このへんはちょうど、グスタフ皇国と魔女の国との境目にあたるはずだ。

魔女の国に許可なく入り込むと、豚や牛、鶏に姿を変えられるとみんなが言う。

「本当かどうかわからないが・・」
魔女の国に入り込むと、二度と出られないとも言われる。

異界。

魔女が恐れられているのは確かだ。 強大な魔力は、いろいろな国でも噂になっている。

「陽が暮れる前に、何とか道を見つけなければ」

オルロフは太陽の位置で方向を定めようと、空を見上げた。
その時、空中にキラリと光るものが飛び、放物線を描いて落ちた。

「あれは、なんだ?」
オルロフは、好奇心にかられ、光の落ちた方向に進んだ。
木々の隙間から見えるのは大きな湖。
秋風が滑るように湖面をざわめかす中、黒い影が湖に入っていくのが見えた。

逆光でよく見えないが、その後ろ姿、金の長い髪が風に揺らぎ、 華奢な体も揺れる。

まさかっ・・・死ぬ気かっ?!!
「待てよっ!!」
オルロフは叫び、全力で走り、湖水に飛び込んだ。
湖は遠浅だったので、膝くらいの水位で、何とか金の髪の人の腕をつかむことに成功した

金の髪の人は、オルロフの腕を振りほどこうと抵抗したので、二人とももみ合っているうちに
湖の中に倒れこんでしまった。

次に叫んだのは、ずぶぬれの金の髪の人だった。
「なにすんのよっ!離してっ!ばかっ!!」
そう言うなり、オルロフの頬をひっぱたいた。

金の髪の人の瞳は、アメジストの色だが・・怒りに満ち、(にら)んでいる。

「いってぇ!君は死ぬ気だったんだろうっ!!」
オルロフは、いきなり頬をはたかれ、その驚きもこめて大きな声を出した。

「はぁ・・死ぬわけないじゃないっ!指輪を探していただけよっ!」
アメジストの瞳は強い光を放ち、オルロフを捉え(とらえ)た。

二人は向き合った。しかも、ずぶ濡れで。
「誤解するような事するなよ!まったく!ひどい目にあった・・!」
オルロフはあきれるのと、こみあげてくる怒りと共に、一人で岸に向かおうとした。
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