第3話

文字数 933文字

オルロフは、指示された部屋のドアを開けた。

女の子の寝室。
ロートアイアンで細工された小さなベッドには、白いレースのカバーが掛かっている。

細かい銀の細工が美しい、楕円形の鏡。
その前のチェストには、ピンクの小花が活けてある。
床は毛足の長い白いラグ。
窓にはレースのカーテンと、淡いピンク色のカーテン。
そして、窓際に吊る下がったラベンダーが、微かに香る。
ベッド脇の椅子の背に、オフホワイトの裾の長いドレスがひっかかってあった。

「妖精の寝床か・・」
オルロフは微笑んだ。かわいらしい。

「早く!!着替えたら、こっちに来てっ!!」
妖精が、ドアをガンガン叩く。

まったく・・強いな。
オルロフはほうっと息を吐いてから、毛布をかぶり、濡れた衣服を手に持って部屋を出た。
廊下では、妖精が腰に手を当てて、仁王立ちで立っていた。
「暖炉の前に広げて置けば、すぐ乾くから!」
妖精は命令口調だ。
オルロフは苦笑して従った。

「陽が落ちる前に、出て行ってもらわないと!」
妖精はそう言いながら、戸棚から大きい瓶とグラスを出した。

オルロフは、暖炉脇の椅子に座った。
「君は道がわかるか?実は迷って困っていたんだ」
妖精は瓶からとろりとした薄緑の液体を、慎重にグラスに注いでいる。

「ああ、そうね。この場所では魔女の力が、何かの弾みで揺らぐことがあるの。
その影響で、道が消えたんだわ」
そう言ってから、グラスをオルロフに差し出した。

「薬草リキュールよ。うちの秘伝のやつ。飲んで!」
やはり、命令口調だ。
グラスを受け取りながら、妖精の顔をゆっくり見ることができた。

透き通るような肌とアメジストの瞳は、光の加減で微妙に青く変わる。
金の髪には、銀が混じる。
それにコーラルピンクの小さい唇。

秘密の小箱に入れておきたいような美しさだ。
オルロフは思った。
グスタフの女は髪が黒く、骨太でがっしりしている。そして無口だ。

この妖精は、まったくそれと異なる。
はかなげに見えるが・・・
「なに・・?!人の顔をじろじろ見てんのよっ!」
妖精がかみついた。

「まったく、グスタフの男は獣と同じって聞いたわ!!」
続けて吐き捨てるように、オルロフをにらんだ。
「1年中発情している!!!!」

オルロフは狼狽(ろうばい)した!
このかわいい妖精の口から・・こんな言葉がでるなんて・・
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み