第11話

文字数 1,366文字

「そう、体験が大事なんだ。嫌ならすぐにNOと言えばいい」
妖精は親指を口にあてて、考え中だ。
ここからはガンガン押していくしかない。
妖精に考える時間を与えてはいけない。

「ハグはできるだけお互いの体を、密着させるのが定番だ」
オルロフは妖精の手首を握った。
「ます俺の膝に座って」
そのまま引っ張ると、妖精はストンとオルロフの膝に収まった。
だが、小さな木の丸椅子に座っているようで、落ち着かない。
酔っているのもあるのだろう、体が微妙に揺れている。

「もっと、俺によりかかってくれ。君も疲れるだろう?」
オルロフの下心が春の芽吹きを迎えた草のように、ここぞとばかりに、ぐんぐんと生えてくる。

「それに恋人とは、裸でハグするのが普通なんだ」
「はぁ~、裸なんて風邪をひいちゃうじゃない!」
目を見開いた妖精は正論を吐いて、オルロフを見上げた。

「そ、そ、そうだね。今日は練習だからね。そこまでしなくてもいいけど」
狼狽したオルロフは少し天井を仰ぎ、気持ちを落ち着けた。
自分の腕の中に、妖精は収まってくれているのだ。

「どんな気持ちがする?俺は・・すごく幸せな気持ちだけど」
「そうねぇ・・森の中の・・大きな木の根元で毛布にくるまって座っている感じ」
妖精はクスクスと小さく笑った。

暖炉の火が心地よい。
薪のはぜる音が、この空間の静けさをより際立たせる。
ぱちっ
その音が、オルロフには次のステップに進む合図のように思えた。
「キスを・・してみようか」
そうだ。
この妖精は遅かれ早かれ、3人の男に体を預けることになる!!
そんなことは・・・俺が絶対に許さない!!

「そう、グスタフでは必ずキスをする前に、同意を必要とする。
お互いの気持ちを、言葉で言わなくちゃいけないんだ」

「もし、相手が同意しなかったら、どうなるの?」
妖精は焦点が合わない、揺れる視線をオルロフに向けた。

「同意を・・・しなければ、そこで「さよなら」になる」
オルロフは一息入れた。
「男の方があきらめられなくて、無理やりしようとするならば・・・」

グスタフの男は思春期になると、あの理論を叩き込まれる。
そんなことをしたら<永遠に、たたなくなっちまうぞ>
絶対の禁忌。

「その・・・たたなくなる・・・」

「へぇーーー、じゃあ、歩けなくなるし、ずっと車椅子の生活になっちゃうわけ?」
妖精は「それは大変だ」というように、うなずいた。

だから!<立たない>と<立てない>とは違うのだ!!
そもそも足の話ではない!
いや、なぜこの妖精はいつも斜め横方向から、つっこみをいれるのか?

「だから、たたないっていうのは、俺が言うのは、足ではなくてぇ・・・」
赤くなったオルロフは、ブンブンと首を横に振った。
薬草リキュールは、確実に俺の脳みそを麻痺させてきている。

それでも・・・そのまま妖精を自分の胸に引き寄せた。
もう、自分の気持ちを押さえることはできない。
オルロフは、妖精の髪に唇をつけてささやいた。

「俺の国では、お互いの気持ちを確認したら<愛の儀式>をする。
俺は君を愛しているから・・君のすべてを・・知りたいし」

妖精の甘い香りと薬草リキュールの匂いが、オルロフの鼻腔をくすぐる。
「君は・・どう・・?俺の事をどう思っている?」

オルロフは自分の胸にもたれかかっている、妖精の首筋に唇をつけた。

「・・・?!」
反応がない。

妖精は動かない・・・・・・・・寝ていた。



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