第2話

文字数 790文字

<湖・16時30分>

「もう、いいわ!・・指輪はあきらめる!」
オルロフはもう一度、振り返った。

金の髪の人は、水の中にたたずんでいるかに見える。
水がほとほとと、滴り落ちている。
その姿はまるで、湖に漂う花の妖精。
はかなくて、抱きしめたら、花の香りで苦しくなりそうで・・

オルロフの怒りは、風と共に吹き飛んでしまった。

妖精は、オルロフと視線を合わせず、横を向いて口を尖らせた。
「・・ごめんなさい・・悪かったわ。あなたを巻き添えにしてしまって・・」

「水の中は滑る。危ない」
オルロフは、手を差し出したので、妖精はそっと手をのせた。

そうしてオルロフが先に歩き、二人はなんとか岸にたどり着いた。
オルロフは、その手をもっと握っていたかったが、岸につくと、妖精はすぐに振りほどいた。

「そばに小屋があるの。暖炉で服を乾かすわ。あなたにも迷惑をかけたし」

妖精はさっさと先を歩くので、オルロフはびしょ濡れの犬のように後をついていった。
少し歩くと、小さな丸太組の小屋が見えた。
小屋の壁は、紅葉のはじまったツタでおおわれている。

「あなたはグスタフ皇国の人?」
「ああ、俺はオルロフ。君の名前は?」
「エリーゼ」
妖精は愛想がない。

「ここはどこなんだ?」
「魔女の国とのちょうど境目。でも歩いている所は、魔女の領地」
オルロフは、めげずに質問を続けた。
「エリーゼ、君は魔女の国の人なのか?」
妖精は、うなずくかわりに小屋の扉を開けた。

乾燥した草の匂いがする。
そして暖かい。
「そうね・・でも・・ここから出ていくつもり」

妖精は手早く戸棚からタオルや毛布を取り出し、オルロフに押し付けるように渡した。

「そっちの部屋で濡れちゃったものを脱いで。
毛布があるから、それをかぶってくればいいわ。
ここには男物の服がないから。
まぁ、暖炉のそばに置いておけば、すぐに乾くと思うけど」

妖精はそれだけ言うと、地下に向かう階段をトントンと降りて行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み