第60話 五十肩とブラジャー問題

文字数 1,667文字

 去年の秋ごろから右腕に五十肩の症状が出始め、負傷した右腕をサポートすべく左腕が大活躍していました。
 当然の成り行きと言いますか、今度は左腕に支障が出始めました。
 まだ、いっときの右腕ほどの激痛はありませんが、左腕も上がらなかったり、後ろに回らなくなりました。
 右腕も痛みはずいぶん軽くなりましたが元通りには動きません。
「アイタタタ……」
 と言いながら、諦めと工夫でたいていのことはなんとかやり過ごしているのですが、最近の一番の困りごとが『ブラジャー問題』でした。

 そもそもブラジャーって『攻め』の肌着ですよね。
 あんなワイヤーで体を締め付けて、洗濯や収納も型崩れしないように気をつかって……。
 女性であることを武器にするための装具、といった感じです。
 もうそんな意欲もパワーもなくなった今、装具から肌着のブラジャーにしたくなりました。
 ほんとうならつけたくないくらいです。
 締め付けるものをなにも身につけたくない。
 こうして体型もどんどん緩んでいくのでしょうね……。

 右腕に五十肩の痛みが出始めたのは昨年の秋でした。
 そのころからブラジャーの着脱にも不便が出ました。
 背中に手が回らず、ホックに手が届きません。
 お腹の方でホックを止めて、グルンとまわして装着していました。
 体を締め付けるのが苦しくて、ノンワイヤーブラを買ってきて足から通して定位置まで引き上げて装着していました。
 季節は春から夏へ。
 だんだん体が汗ばむようになると、ノンワイヤーブラを定位置までぐいっぐいっと上げようとするのですが、汗で引っかかって思うように動いてくれません。
 五十肩になる前ならほんの数秒で終わっていた「ブラジャーをつける」ということに、鏡を見ながら5分も10分もかかります。
 ハンガーを手に持ってグイっと上げてみて、突起に肩ひもがひっかかってバキッと折れたこともあります。
 ハンガーはやめて、突起のないプラスチック製の布団叩きでぐいっぐいっと定位置までの移動を試みます。
 出かける時間がせまって、ブラジャーは定位置に納まってなくて、傾いていたり、背中や脇の下にくいこんでいたり、肩ひもがぐいーっと伸びた状態だったり……。諦めて服を着て終わります。変なまま出かけます。
 夫や息子にはブラジャーの位置を直してとは頼み辛く……。
 それまでなんてことなくできていたことができない惨めさ、情けなさ。
 何度も泣きたくなりました。大袈裟ではなく。
 これが老化というものなのだろうなとも思いました。

 そしてある時ふと
「ノンワイヤーで前あきのブラジャーがあったらもっとラクにつけられるのでは」
 と思いつきました(気付くの遅い)。
 ネットで検索してみると、よさそうな商品があります。
 さっそくユニクロに行ってみました。
 店舗ではどのお店も売り切れとのことで、ネットで注文しました。
 わくわくしながら届くのを待ちました。
 大袈裟に聞こえるかもしれませんが、それぐらいブラジャー問題に困っていたのです。
「でもやっぱりちゃんとはつけられないかもしれないな……」
 それまでの諦めと屈辱の経験から、期待し過ぎないようにブレーキをかけている自分がいました。

 数日待って「エアリズム前あきブラ」が到着。

 わくわくとおそるおそる半分ずつぐらいの気持ちでつけてみました。

 (T_T)(T_T)(T_T)

 さっと、ちゃんと、定位置につけることができました。

 うれしかったです。

 日常の困りごと。

 ずっとそのことを気にして落ち込んでいるわけではないけれど、その困りごとに遭遇するたびにやっぱり諦めの気持ちになって惨めにもなります。

 それを少しでも解消しようと様々な製品が開発されたり、社会も整備されているのだと思います。
 元気な時はそんな不便に思いをはせることもなく暮らしていましたが、さまざまな困りごととともに暮らしておられる方がこの世の中にはたくさんおられるのだろうなと、このブラジャー問題でつくづく感じました。

 想像力を豊かに、泣きたい顔が少しでも笑顔になったらいいなと思います。

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