第80話 ルーティン

文字数 752文字

 間に合った。
 停車している急行には乗らずに、次の電車を待つ。

 急行が発車し、間を置かず各駅停車の電車が入ってくる。

 この電車に乗ると座って行ける。
 片道15分。
 座席に座り、膝に置いたリュックから本を出す。
 文庫本ならリュックの外ポケットに入るけど、文芸書はそうはいかない。リュック本体のファスナーを開いて取り出さないといけないし、文庫本よりも嵩張(かさば)るし重い。
 だけど今読みたいのがその本ならなにひとついやじゃない。

 ほかの人になにを読んでいるのか知られるのはいやだから、本にはカバーをかける。別に聞かれて困るような本じゃないけど、本のタイトルや表紙を(さら)して読むのは下着のまま出掛けるような感覚。

 カバーは書店でもらうカバーじゃなくて、包装紙などを再利用するのがすき。

 今のお気に入りはamazonの簡易包装の袋。ベージュの紙に黒いインクで葉っぱの模様が印刷してある。
 本より一回り大きいサイズに紙を切る。その上に本を置き、本の大きさに合わせて上下左右を折りたたんで、できたカバーに表紙と裏表紙を滑り込ませる。

 葉っぱの模様の中に 

 環境に配慮してパッケージを簡素化して配送しています。 Your order is delivered with eco-friendly package.

 という印刷が入っている。文字の大きさや入り方がさり気なくてかっこいい。

 手作り再利用のカバーに包まれた本を開く、朝の15分の時間が私の心を掃除する。埃や紙クズが散らばった心を(ほうき)で掃く。
 そうしないと心が死んでしまう。

 慌ただしく、いろんなことを置き去りにして回る毎日。

 車内を見渡すと本を読む人を一人、二人見つける。あの人も読書がすきなんだな。
 そう思いながら、栞を辿って昨日の続きを読む。

 私の最近のルーティン。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み