文字数 923文字

三枚入りの食パン、ロースハム、リーフレタス、卵、牛乳、チーズ、マッシュルーム、チリトマトの冷凍パスタに鶏肉約五百グラム、、

アパートから歩いて十分近く。そこにある小さなスーパーに、私は決まって、日曜に買い出しに行く。できるだけ四日分程まとめて買うようにしている。献立が思いつけば。
今日はお昼のお弁当も買った。ここの日替わり弁当は安くて美味しい。
今夜は弟と食事をする。
三つ年下の弟は、週に一度、律儀に手土産を携えて家にやってくる。職場からもらったシャインマスカットや魚屋の刺身盛り合わせ、駅前にできたばかりのドーナツ、それから必ず、何かお酒。弟が飲むのはいつもノンアルコールの缶二本だけなのに。

弟は先天性の障害をもって生まれた。

小さな足や手や頭に、包帯を巻いては外す、を繰り返しながら大きくなった。そして今は、姉の私なんかよりしっかりとしている。支援学校を卒業して就職した会社に勤め続け、車の免許も取って、一人前に生活している。

ほんとうの優しさを持った、私の弟。

卵と牛乳、コンソメを混ぜて具を加えた簡単なキッシュ。ハム卵サラダ。鶏肉を塩麹とバジルで味つけたもの。冷凍パスタ。
机に並べて、弟が持ってきてくれたワインを、グラスに注ぐ。
(ねえ)さん、何かあった?」
ソファで寛いだ弟は不意にそんな事を聞く。 
「何かねぇ。そうだ。菜穂ちゃんオーストリアに留学するらしい。すごいよねオーストリア」
音楽をしに、行くのだそう。私には別世界で眩しい。それから、やっぱり寂しい。
「フルート吹いてる子だったよね。いいなあ。俺はスペイン行きたいなあ」
キッシュを皿によそいながら、ソファから床に降りてあぐらをかいた弟。
「サッカー見に行きたいんだ?私はオランダかな。田舎の風景に癒されたい。そういえば、今J1のサッカー中継してるかもよ。テレビつけようか」

弟といるとこんなふうに、当たり障りのない話題に変わっていく。それは穏やかで、ゆったりとした時間になる。

体の真ん中あたりの奥が、ざわざわしていたらしい事柄が、どうでもよくなる。


いろんな家族の形があるだろう。
私の弟は彼だから、この形を築けた、

魅力的な彼は、私の誇り。


今夜は三日月。
たっぷり飲んで他愛ない話をしよう。

大切な人と一緒に。








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