文字数 290文字

ここから見下ろす景色はきっと、有り触れている。

けれど、ひとりひとりに与えられた今、を、見ている。そう思うと、尊い。


両手を横に広げてみる。
ふんわりと風を、体全体で感じることができた。

目を閉じてみる。
空気が乾いていて、秋めいた匂いがする。
それから、濃い、ウィスキーの香り。
そしてあの日のケイトウ。
愛らしい文音(あやね)の横顔。

目を開けて空を見上げた。
まばらに見える星達。
近くて遠い。
いつか届くといい。

一歩、二歩。
もう少し歩くことができればいいのに。
そうすればもっと、風を感じられる。

それからは必ず、ばらばらになれるのに。


百合乃(ゆりの)
私は呼ばれたほうを見た。
それ以上、歩いてはいけないことを思った。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み