文字数 727文字

風が冷たい。空一面に雲が広がっている。
今日のような日はとても落ち着く。
曇りの日がいちばん好き。
曇り空は、私によく似ているから。

プランターにたくさんの花々。
事務所の裏にはベンチがあって小さな庭みたいで。いつも静か。
今日はコンビニのサンドイッチをお昼に食べている。ボリュームのあるカツとたっぷりの卵。お腹が空いていた。

近くに感じる、人の気配。
「やっぱりここにいた」
スーツ姿のこの人は、今日も爽やかそのものだ。
「エクレアとシュークリームどっちにしますか?」
嬉しそうに、どちらも入っているであろう箱を持ち上げて見せた。この人の笑った顔を見ると心がほぐれる。
「ありがとう。でも、今はお腹いっぱいで」
私は手元のサンドイッチの空箱を見て、そう伝える。
「そうでしたか!じゃあどちらも冷蔵庫、入れておきます」
そう言って小走りで事務所に向かっていった。
直向(ひたむ)きね」
煙草を咥えた部長は静かにそう言って、私の隣に座った。パンツスーツに長い黒髪。それから、優しい気配。


ここに初めて来た時、私はとても緊張していた。きちんとした面接は久しぶりで、それに何より自信がなかった。何事にも自信を無くしていた。
そこに現れたのが、部長だった。
優しい人だとすぐ分かった。それでいて、部長だと聞くと、すぐ納得のいくような。そんな貫禄もあった。
「お昼、何食べました?」
簡単な挨拶の後、部長は私に、そんなことを言った。
面接してから数時間後電話があって、採用してもらった。未経験でも可のリフォーム会社の事務職員。私の年齢で、採用してもらえるとは思っていなかった。
私はきっと、運が良かった。


「寒いわね。中、入りましょ。あの子、待ってるわよ」
煙草を一本吸い終えた部長は立ち上がり、空を見上げながらそう言った。




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