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文字数 717文字

(みぞれ)
ずっと遠くの空から、ちらちら、と落ちてくる。
冷たい指先。温かなココアが体に染み渡る。
今朝は一人ではなくて。
ダイニングテーブルから見える背中。
愛おしい。
まだ眠っている彼の存在が、いつもの部屋の空気を変えている。
体温。それはかけがえのないもの。
それはいつだって必然的に必要としている。
全てを包み込み、必ず満たしてくれるもの。
けれど儚く容易(たやす)い。
それから離れてしまった私は、既にしっかりと冷たくなっている。
ずっとは続かないこの時を、素直に受け入れることができればいいのに。
それさえできればこんなに、浅い呼吸をすることはないのかもしれない。

手にしてみたい。

必然的なものを。

私はただただ、貪欲なのだろう。

眠っている蓮くんの髪に触れた。
それから肩に。腕に。美しい指先に。
色素の薄い柔らかな髪と白い肌に、細長くて綺麗な手。
私を愛してくれている人。
頭から足の先まで、彼は優しく私を愛撫してくれる。こんなふうに愛してくれる人は、初めて。
ココアを飲み干し、蓮君の体にぴったりとくっついた。私は、衝動的なところがある。
「ずっと。ずっとこうしていたい」
泣きそうになりながら、私は蓮君の温かい体をとても強く抱きしめた。
蓮君は寝ぼけ眼で、何も言わず、抱き寄せてくれた。
ゆっくりとキスが落ちてくる。
頭に、瞼に、耳に、首筋に、頬に。
それから私の目を真っ直ぐ見て、愛おしそうに微笑んだ。


この時が止まればいい。
そう思う瞬間は、何度も味わった。
でもそれは、止まることなく、進んでしまう。
誰にも止められないこの時を。
誰もが生きている。

きっとこの手はいつか、優しく離れる。

私は彼の目に、どう映っているのだろう。

最初から最後まで、美しくいたい。


そう思うのは、わがままだろうか。
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