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文字数 818文字

お腹いっぱい。
お好み焼きにおでんに、ニラ玉。
それからたっぷりのビール。

真夜中の空気は一際澄んでいて美味しい。
きちんと着込んでいるから寒くはないけど、頬と鼻が赤くなっているのが分かる。
私はとても寒さに弱い。
右手のポケットに滑り込んできた手は、大きくて温かい。
「今日、珍しく結構食べたね。気分、大丈夫?」
中野君。中野 蓮太朗(れんたろう)君は私をとても甘やかしてくれる。今夜は誕生日を祝ってくれた。私がお好み焼きが食べたいと言うと、不満そうな顔をしてから、諦めたように納得してくれた。
「連れて行きたい店があったのに」
そんなふうに言いながら。改めて、祝ってくれようとしてくれていたのだろうと思う。でも私はいつも通りがいいのだ。蓮君と二人の時は特に。

「僕、百合さんと並んで歩くのが好き」
ポケットの中で繋がれた私の右手は温まっている。
「向かい合っていると、少し落ち着かないから」
「こんなに一緒にいるのに?私は蓮君の顔見てると、いつも安らぐよ。とても」
蓮君は私の顔を覗き込んで、優しく笑った。それからポケットの中で握っていた手をほどいて、自分のコートのポケットに手を戻す。
「会おうと言ったら会ってくれる。手を繋ごうと言ったら繋いでくれる。抱きしめれば、抱きしめ返してくれる。でも何故か僕は、いつも寂しい。あなたは、何も望んでいないようだから」

風が吹いて、枯葉が舞う。
枯葉を踏む音がさっきより大きく聞こえた。
私のアパートの前。落ち葉でいっぱいになっている、くたびれた古いアパート。
「今日は帰るよ。明日は本社行けそうにないけど。また、部長に着いて行く。顔見に、行くから」

私は枯葉を踏む音が好き。そして、蓮君の事も好き。好きなのに。

私は永遠がないことを知った。それから、永遠を求めないことにした。
その方が傷つかずに済むと思ったから。
でも傷ついている。そして誰かをこんなにも、傷つけてしまっている。

結局、何処に行けばいいのか、私はいつまでも、分からないままなんだと思う。




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