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文字数 669文字

写真の私は、満ち足りた顔をしている。
当たり前にない時の中で。
けれど今でもはっきりと記憶にある。
私の真ん中辺りはずっと締め付けられていた。
ぎゅぎゅっと、静かに。
ずっと前から写真は嫌い。
どの顔も醜く、気に入らない。
私は私を、ずっと受け入れられずにいた。

満ち足りた顔をしていたように見えていた頃。
私は毎夜、湯舟で涙を流していた。
声を殺して泣いた。
そこではいくら泣いても全て洗い流せたから。
たっぷりの温かな湯は、私を優しく受け止めてくれた。
きっとずっと忘れることはないあの日々。


昨夜受け取った、しわくちゃの封筒。中には束の一万円札。父が置いていった。私は恵まれている。今までも、今でも。
今朝は食欲がなかった。鏡に写る自分の顔色。あまり良くない。しっかりと化粧しなくては。それは厚く塗ることではなくて、丁寧にすること。そうすれば心の安定に繋がる。
家を出る前、ケイさんに連絡をしておくことにした。
「今夜、空いてない?」
最近、断り続けられている。忙しくしてるのかもしれない。
違う。分かっている。
私に。会いたくないのだろう。

私は会いたかった。
大切にしたいし。
失いたくない。
必要としてほしい。
笑っていなければ、私が側にいたい。
愛している、その意味は分からない。
けれどこれが、愛しているということ。なのかもしれない。
でも私はそれを、受け入れられない。
信じられないから。

優しい温もりに、長く寄り掛かりすぎた。

私は一人のようだ。
置いていかれた封筒と一緒に。
でも、あの頃の写真の私なんかより、ずっとずっと呼吸が安定している。



返信がない。
そろそろ、潮時かもしれない。




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