Stage6 その後 2
文字数 2,855文字
「……待て」
声がした。
まさかと思うだろう。誰でも。
しかし嫌な気配を察した彼が勢いよく振り返った先には、首のない
「忘れ物だ。返すぜ」
地面に転がった首の唇が動いた瞬間、
その手には先程まで
「は、はは……首を斬られてなお喋るとは、どこまで醜悪な、」
次いで腕は自らの心臓に刺さった鉈を引き抜き、
血を吐き、あっけなく
鬼王の腕はついさっき自分がそうされたように、その首を素手でいとも簡単に捩じ斬った。物言わぬ
「脆いな、人間は。首を斬られただけで死ぬか」
地面の上で、
――――――――――
「大将、こっちだ!」
しばらくして、静かになったその場にいくつかの足音が近づいてきた。
三匹の魔獣と兵を引き連れた
別ルートを進んだ彼らは彼らで鬼を
「うわ」
先頭をきっていた魔獣たちが、真っ先に異変に気づいて足を止めた。
地面や壁、天井までもが、多量の血や肉片で汚されていたからだ。
後からやってきた
「……これは」
「来たな、
「
死で溢れかえったその場の中央で、生きているのは
一度は切断された首はかろうじて繋がっていたが、全身ぼろぼろで、目も見えていないようだったが、それでも生きて立っていた。
「貴様がやったのか」
名を呼ばれた李命は、臆することなく前に出た。
「そうだ! どいつもこいつも脆いったらねえ! 百人がかりでも俺を殺せねえんだ! この人数でやれたのはこのナキマだけ! 哀れなもんだな、人間ってのは!」
笑う
それから骨とはらわたを残して食い荒らされた人間の胴体。その傍に
「……
問答無用で襲いかかって来ないのは、これが最後だと、すべてを決する頭領同士の一騎討ちになるとわかっているからなのだろう。
それは
だから刀を抜くより先に、自分がこれから倒す相手に言葉を投げかけることを選んだ。
「……
「あ?」
「平和な世界を取り戻したい。誰も犠牲にならず、誰も血を流さなくて済む世の中にしたい……この
淡々とした、しかし嘘のない言葉だった。
「だが
「彼は表向きは柔和だが、その表の面ではとても隠せぬほど強い憎悪と怒りを内に飼っていた。鬼という生き物への憎しみこそが彼の原動力だったように思う……その苛烈さを恐ろしいと感じたこともあった」
戦いに身を捧げてきた
清廉で酒も女もやらず、愚痴のひとつもこぼしたことがなかった。
そんな男が今、おそらく初めて、ひとりの人間に抱いた印象を言葉にしていた。
「だが思う。そうして彼がいつも怒りを露わにしてくれていたからこそ、私は何も憎まずにいられたのかもしれないと」
どんな相手に対しても敬意あるまなざしを向けてきた瞳に、はっきりとした殺意が宿った。
「戦友の矜持、私が引き継ごう」
「長え遺言は終わりか?」
「
━━━━━━━━━━
かくして、人と鬼の戦いの歴史はここに幕を閉じる。
人は勝利を掴んだ。
朝廷の
これにて終い。
めでたしめでたし。
【妖怪ノヅチ】
うわばみヶ原の藪の中で、変わらず暮らしているようだ。
【
鬼退治の功績を称えられ、
【
【
【
【
鬼ヶ島から帰還し、国の英雄となった。
しばらくの間は
その後旅人となり、妖怪や獣の被害で困っている村や町を訪れては人助けをし続けた。
長く国中を放浪し、最後は生まれ育った故郷の
「Ending1 李下に死す」
こんなはずじゃない。
こんなはずじゃなかった。
確かに私にとってこの物語の結末はまだ、雲に覆われた山の頂のようにおぼろげなものだったが、けれどこの結末は違う。
あの子に捧げる物語の最後は、こんな救いのないものじゃないはずだ。
どこだ? どこで間違ったんだ?
書き直さなくては。
もう一度。
(ログインが必要です)