Ending:これから始まる物語 2

文字数 1,160文字

……こういう論争はきっともっと出てくるよなあ

多分、吉備守(きびもり)みたいな人間の方が多数派なんだろうな……ていうか皇李命(すめらぎのりめい)、やっぱちょっとズレてるなあいつ

誰だ!!

ひえ!?

失礼。鬼が紛れ込んだのかと思ったぞ。覗き見とは感心しない

す、すみません

何か私に用か?

ええと、鬼城(きじょう)から持ち帰った種子のことですが……

そなた、あの種のことを知っているのか?

あ、アレを運び出した部隊にいましたので

なるほど。ご苦労だった

(すめらぎ)大将は、鬼達との和睦(わぼく)を考えていらっしゃるのですか

……早速か。参ったな

ご心配なく。誰にも言いません故

ただ何故そのようなことをお考えになったのか、聞かせていただけませんか?

先ほども別の者と同じ話をしたところだ。やはり皆の理解を得るのは難しいらしいな

いえ。私はむしろ(すめらぎ)大将のお考えに賛同します

ただ私は、大将の御心の内が知りたいのです。世界のためだとか"かくあるべきだ"というようなお話ではなく、あなた自身の望むことが

あの物語の中の皇李命(すめらぎのりめい)にはそんなものはなかったかもしれません。彼はそういう人でした。けれど今のあなたにならきっとあるはずです

すまない。そなたが何を言っているのかよくわからないが、しかし……

私の望みか……

私は誰も傷付かず、傷つけることもない世界を望む。できることなら鬼も妖怪も人も。難しいことは承知している。それでも目指すことをやめたくはない

う、うーん……そうじゃなくて……

弱き者が虐げられない、飢えに苦しむ子供がいない、皆が笑顔でいられる、それが当たり前の世であって欲しいと心から思う

た、例えば! 今仰ったような世界が実現したとしたら、その世界で大将はまず何がしたいですか?

役目が終わったら、その時は……

叶うなら、故郷に、義両親の元へ帰りたい

父の畑で採れた野菜で母が作った飯を食べて、李の山に出る獣たちと戯れながら、穏やかに過ごしたい。幼い時のように

ふふ、私は今でこそこうして侍を名乗っているが、元々山奥から出てきた大田舎者なのだ

近くの山にグリズリーアオカブトというとてつもない大きさの熊が住んでいた。決闘して私が勝ったことで大人しくなったのだが、ひどく凶暴な奴で

懐かしい。今も元気にしているといいのだが

……

すまない。退屈な話を

いいえ

あなたの根底にある景色を、知れてよかった

だがかなわぬ夢だろう。人鬼(じんき)の溝を、私が生きている間には埋めることは叶わないかもしれない

大丈夫。私もお手伝いしますよ

あなた自身も幸福になってもらわなくては、大団円にはなりませんから

長良と言ったか? そなたの望みは?

私の望みですか? 改めて聞かれると……そうだな、平和な世界、ですかね

……

あー……あはは、やっぱり平和が一番っていうか

……違いない

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色