Stage6 鬼城 天守

文字数 2,469文字

Chapter6

 和邇(わに)の世界

しつけーんだよ!

鬼王(きおう)キリコ、おまえはただ強くて残虐なだけの鬼じゃなかったみたいだ

もう恐れたりしないぞ! 何故なら私はこの世界の結末を決めることができる、作者というほぼ最強の存在だから!


 ━━━━ 戦闘 & 撃破

な、なんだこの部屋

あそこにいるのが和邇(わに)ナキマか?

……誰?

取り込み中悪いな。恨みはないがひとつ、おとなしくシバかれてくれ

人間!

おっと、別にあんたを退治しようってわけじゃない。事情があってな。少しだけ手合わせを願いたいだけだ

来るな

人間なんて信用しない。僕は兄様を守る。ヨグノツルギが守ってくれる

げ、あのチート武器、もう発動してるのか!? じゃあこの部屋を覆いつくす黒いもやもやは……

アイツが抱えてる剣のことか? 子供が持つには随分禍々(まがまが)しい得物(えもの)みたいだが

待ってください、和邇(わに)様!

私です。長良継平(ながらつぐひら)です! 私のことを覚えていませんか!?

……? あなたも人間だよね? 何をおかしなことを。人間の知り合いなんていないけど

私は覚えております。初めてお会いした時、あなたは(とこ)()していて、私は拘束された罪人でございました

あなたは重い病を患っており、いつもひとり寝て過ごしていた。私は旦那様の命により毎夜あなたの部屋を訪ね、物語をお話ししていました。あなたはそれを、いつも楽しみにしてくださっていた

……何の話?

でも正直言って、私はそれが苦痛でした。だって私にとって物語を(つづ)ることは、自分の命を明日に繋げるための手段に過ぎなかったから

あなたと過ごした千日間、ずっと命綱に首を絞められているような心地でした

私が私自身を救うためだけについた苦し紛れの嘘。あの物語もそのうちのひとつに過ぎない。でも和邇(わに)様はそんなものを、私よりずっと愛してくれていた。『もしこの物語が現実だったら』『登場人物達が本当に存在したら』『自分が登場人物のひとりになったら』そんな風に想像の中で、世界に色をつけてくれていたのですね

……

私はずっとこの世界を、自分が作り出した虚像だとばかり思っていました

でもそれは間違いで、きっとあなたが描いた、あなたの物語だったのでしょう

……
……継、さん、

うん……僕、あなたのお話が、大好きだったよ

……錠前が

和邇(わに)様……

……これ以上ここにいてはいけない。早く元の世界に帰りましょう。あなたのいるべき世界はここじゃない

……本当ならそう言わなくてはならないのでしょうね

でも帰るべき世界はもうなくなってしまいました

ならばもう、道はひとつしかありません! この長良とともにこの物語の結末と、その先の未来を作り出しましょう!

……ッ、何を、わけのわからないことを

(……錠前が消えた)

(いや、出たり消えたりしている?)

さてさて、そのためにまず、危ない武器から一旦手を離して貰いましょうかね

おい

易者さん?

アイツからあの黒い剣を奪って錠前をこじあける。それでいいな。俺にできるのはそこまでだ

その後のことは、あんたがどうにかしろ

ありがとう。どうかこれを最後にしてくれ!


 ━━━━ 戦闘 & 撃破

剣が錠に変わった……いや、これが本来の姿なのか?

うう……なんで皇李命(すめらぎのりめい)でもなんでもない人間がこんなに強いの?

俺はこの世界の者じゃないからな。元からアンフェアな闘いだった。大人は汚いんだよ坊主。さあて、こいつは貰うぞ

ごめんね和邇(わに)様。でも落ち着いてよかった

さて、と。開けるぞ

和邇(わに)ナキマ。鬼王(きおう)宇羅部(うらべ)キリコの弟分。

姓からもわかるように血の繋がりはない義兄弟である。


身体が弱く小さかったため針山に捨てられた天涯孤独の鬼。ナキマは自分を捨てた家族を恨みながらも、家族というものに憧れた。


同時に強い鬼にも憧れていた。鬼の社会は強さこそが正義であり、力なき者は何も成すことができない。ナキマはそれでも何かを成したいと思った。


強くなりたい。それが無理なら、仲間が欲しい。弱い自分でも見捨てずに守ってくれる家族がほしい。そんな誰かがいてくれたら、自分もその誰かのことを精一杯支えるから。できることはあまりないけれど、その代わりできることはなんでもやるから。


でもこの鬼ヶ島にそんな鬼はいないのだ。ましてやこんな、求めるばかりの手前勝手な願望だ。その悪臭は鬼でなくても鼻をつまむ。わかっている。だからこの世で一番強い鬼にたまたま出会えた時、殺されることを覚悟で、いっそこんな鬼になら殺されてもいいという思いで縋ったのだ。自分を舎弟にしてほしいと。


その鬼、宇羅部(うらべ)キリコは表情を変えなかったが、ナキマの手を振り解くこともしなかった。


ナキマはその瞳の奥にある孤独を感じとった。こんなに強くて偉い鬼なのに、どこか自分に似ていると思ったのだ。

消えた……

いや、まだ鍵が光って……

あ、あれ?

へえ。そういえば、あんたをシバいた時に出てきてなかったな

めっちゃ構えてる! ま、待って待って! 和邇(わに)様作の人物評が出てくるんだろこれ! 気まずいよ! やだよ!

自分だけ逃れようというのはナシだろう。諦めろ

……あれ?

なんだ? これまでと違うな。それはノートか?

これ、向こうの世界に置いてきた……

最後の手帖だ。これに結末まで書くつもりだったんだ、本当は

なんだ? 今度は鍵が……

……う

……、まて、思い出したぞ

くそ、あの鍵男やりやがった。人の記憶を奪って、こんな茶番に二度も……

いや、二度目? それとも有りもしない記憶を植え付けられているのか……? なんなんだこの鍵、気持ちが悪い……うわ、浮いた!?

ぎゃー! 何!? 鍵がこっちに……

……筆になった?

易者さーん! なんか筆が手に入ったんですけど、なんですかこれ! どうしたらいいですか?

知らん。こっちはそれどころじゃないんだ

……これで、続きを書けってことか?

……うん。そうだね。まだ終わりじゃない。やってみるよ。今度こそ

……不可解だ

不可解だが、まあ、考えても仕方ないか

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