1st Epilogue

文字数 1,633文字

……で、気づいたらあのすすき野原に立っていたんだ

世界の終わりが来るというから、何が起こるんだろうと身構えていたけど結局何も起こらなかった

どうやら、やっぱり虚構(きょこう)を現実と(かた)るのは難しいみたいだね。申し訳ない。今だから言うけど、これは賭けだった

もういいよ。それより、どうしてこの世界に和邇(わに)様がいるんだ! 君が連れてきたのか!?

ワニサマ?

君がヨグとかいう錠前(じょうまえ)を渡した子供だよ! なんか鬼みたいになってて、鬼王(きおう)の弟を名乗っていたけど、あれは絶対に、

ちょ、ちょっと待ってくれ。私は知らないぞ。君以外の人間をここへ呼んだ覚えはない

じゃ、じゃあ、ヨグノツルギとかいうチート武器は?

だから知らないって。私はヨグに干渉することはできないし……それについては、和邇(わに)様とやらに直接聞いてもらうしか

和邇(わに)様は私のことを覚えていなかった。ゆっくり話をしようにも、あの子はもう死んでしまった

教えてくれ、ロッキード・コード。この世界はこれからどうなるんだ? 私はこの後どうしていけばいいんだ?

君のすべきことはもうない。何もせずとも時間は流れていくだろう。前にも言ったように、この世界はすでにひとつの『世界』として確立している。もとは君の意思で動かしていたキャラクター達も、今はそれぞれが自分で考え、行動するようになっているはずだ

それにしたって、私の思いもよらない言動をとったり、そもそも知らない人物まで登場してくるのは何故なんだ? その意思ってのはどこから来てるんだ

まあ、そもそも物語というのは、作者だけの占有物(せんゆうぶつ)ではないからね

君が創造主(そうぞうぬし)としてキャラクター達を支配できたのは、あくまで別世界から(あやつ)り糸を引いていたからさ。同じ次元の存在になった今、君の影響力はかなり弱まっていると考えていい

とはいえ、物語の展開をけん(いん)する力とか、運命を捻じ曲げる力は多少残っているのかもね。君のような、見るからにひ弱な人間が、散々危険な目にあってもそうして生きているのが証拠だ。他にも思い当たる場面があるんじゃないか?

……運命を捻じ曲げる力

物語はもう終わってしまった。何もできないまま、勝手に幕が引かれていった。多分、私が結末を何も考えていなかったからこうなったんだ

もし私に運命を変える力があるなら、今からでもこの結末を書き直したい

元の世界でひとつだけやり残したことがあるとしたらそれなんだ

でも君はそれを重荷(おもに)に感じていたのではなかったのかい?

そうだよ。でもいざ目の前であんな結末を見せられたら、これじゃないって思ったんだ

ならば再び扉をくぐるといい。ここは物語の世界。ページをめくり戻せば、何度でも同じ体験ができるだろう

お詫びの気持ちだ。せめてそのくらいは協力しよう。後悔のない結末を見つけられることを祈っているよ

どこへ行ったんだ、あいつ

数日前のすすきの原さ。もう一度、その時点からやりなおすことにしたらしい

そ、そいつはご苦労なことだな……

君から見て、物語の結末はどうだった?

特には。そういうこともあるだろうなと感じただけだ

なるほど。君らしい感想だね

とはいえ彼のことは嫌いじゃなかったのだろう? 一緒になってこの私に楯突(たてつ)いてきたくらいだし

まあ。それはそうかな

ならば、彼にもう少し協力してあげ、

いやそれは御免だ

即答って君

あんたのおかげで、この世界が消失しなかった原因はわかったからな。もうここに用はない

まあ待て待て。そう手間のかかることじゃないからさ。いいから手を出してくれ

……? なんだこれは、鍵? これをどうしろっていうんだ

どうもしなくていい。ただ持っているだけで

異界で得たものを持ち帰ることはできない。どうせここに置いていくことになるが

それでいいんだ。君はその右手に空虚(くうきょ)を握ったまま仲間達のもとへと戻り、そして次の世界へ旅立つ。それだけでいい

……

祝福を君に。また会おう

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