第1話 問題の所在

文字数 3,003文字

(「変わらない日本」問題の本質は、ビジョナリストの不在です)

現在の日本の解決すべき問題には、次のようなものがあります

1.経済成長の停滞と賃金の伸び悩み
2.少子化と高齢化
3.男女不平等問題(賃金、役員比率)
4.科学技術振興とDX対応

最初に断っておきますが、筆者は、これらの課題の専門家ではありません。これらの課題には、問題点が指摘されてから、時間が経過しているにもかかわらず、解決が進まないという共通点があります。俗に、「変わらない日本」と呼ばれる症状です。専門家の指摘は、恐らく、正しいと思います。では、どうして「変わらない」のでしょうか。(補足1)

これが、「2030年のヒストリアンとビジョナリスト」のメインテーマです。


日本では、今まで、30年間、働き方を変えると所得が下がってしまう状態が続いてきました。

一方、米国を中心とした資本主義の世界では、データサイエンス革命が進行して、パラダイムシフト(デジタル・シフト)が起こり、働き方が劇的に変化しました。

データサイエンス革命は、自然科学や工学だけでなく、社会科学と人文科学にも、パラダイムシフト(デジタル・シフト)を引き起こしました。

デジタル・シフトは、劇的な労働生産性の向上をもたらし、高度人材の給与を引きあげました。


デジタル・シフトの中心は、ソフトウェアで、ソフトウェアを作るには、ビジョンが必要です。

デジタル・シフトが経済の中心になった米国では、価値は、ビジョナリストが生み出します。その典型は、テスラの株価にみることができます。

労働生産性の視点でみれば、世の中には、ビジョナリストとヒストリアンの2種類の人間しかいません。
ビジョナリストは、データサイエンス革命(デジタル・シフト)というパンドラの箱が開いてから、増加した新しいタイプの労働者ですが、米国では、古くからいたヒストリアンを給与面で、駆逐してしまいました。

これに対して、日本では、未だ、ヒストリアンが、主流で、ビジョナリストは、マイノリティか、絶滅危惧種です。

米国では、グーグルのようなトップクラスのIT企業では、新卒社員に2000万円前後の報酬を支払っていますし、一般的な企業においても、大卒新入社員の年収が600万円を超えます。日本の新卒の年収は、240万円程度です。

この差は、春闘での賃上げレベルで埋めることはできません。

筆者は、ここで、「ヒストリアン対ビジョナリスト」という視点で、何が起こっているのかを解析することで、「変わらない日本」の本質を理解し、改革への道筋が明らかになると主張します。(注1)

「ヒストリアン対ビジョナリスト」の視点に立てば、このままでは日本が変わる可能性が、ほぼゼロである理由が理解できるはずです。

本書の目指すところは、ヒストリアンの認知のベールを剥ぎ取ることです。

この認知のベールは、年功型雇用という働き方と密接に関係しています。

ビジョナリスト対ヒストリアンの概念は、雇用形態、企業組織に関連した実務的な概念です。

ビジョンの概念は、ソフトウェアエンジニアであれば、誰でも、実感していると思います。ソフトウェアはビジョンがないと開発できないので、ソフトウェアエンジニアは、ビジョンを描かない手法を想像することができません。DXも、ソフトウェアを使うので、ビジョンがないと出来ないはずですが、ビジョンなしに、DXを進めようとして失敗する人が後を絶ちません。

筆者は、本書で、新しい概念を提示したとは思っていません。蔓延して、あまりに、当たり前で、気づかれなくなっているビジョナリスト対ヒストリアンという構図に、気づいてもらうこと、それが、本書の狙いです。

本書は、「変わらない日本」を変えるためのスタート地点につく方法を考察します。

本書は次の構成になっています。

第1章 ビジョンとは何か

ヒストリアンは、ヒストリーから過去の事例から、使える部分(都合の良い部分)を集めてきて、将来計画を立てます。

ビジョナリストは、ヒストリーを分解して、再構築して、ビジョンを作ります。

ビジョナリストの概念は、理論的な厳密さよりも、実際の問題点を抽出して、分析する上での実用性を重視して作られています。

ここでは、例に基づいて、ビジョンとは何かについて、説明します。

第2章 ビジョナリストの理論
ヒストリアンの推論である帰納法のどこに問題があるかを指摘します。

推論のフレームワークの概念の重要性を指摘します。

推論のフレームワークに従って、ビジョナリストの推論であるアブダクションの概念を説明します。

第3章 ヒストリアンを超えて

「変わらない日本」になった原因は、過去に、変わるチャンスを見逃したからです。過去は、道を誤ったヒストリーなので、正しい道との分岐点を探して、ヒストリーの再構築をすることが出発点です。間違ったと思われるところを探して、改善することに抵抗がある人もいます。しかし、本当に苦しいのは、考えられる対策を全て行なっても改善が見られない時です。

ここでは、ヒストリアンが、蔓延しているケース・スタディを示します。

筆者は、個別のケースを非難している訳ではありません。個別のケースに、改善の余地があるということは、そこに手を付ければ、「変わらない日本」から、抜け出すことも可能です。その意味で、この章は、個別のケースを抱える分野へのラブコールになっています。

この章を読むと、読者は、ヒストリアン問題が、認知レベルに達した根深いものであることを理解できます。

この章は、「変わらない日本」から、「変わる日本」への出発点です。






本書のタイトルは、「2030年のヒストリアンとビジョナリスト」です。

ここで、「2030年」の補足をしておきます。

日本が変わるためには、後で論じますが、教育と雇用が変わる必要があります。

教育カリキュラムが変わっても、新しいカリキュラムで学習した人が、労働市場に参入するまでには、タイムラグがあります。仮に、今年、新カリキュラムになっても、新カリキュラムの卒業生が、就職するまでには、10年程度のタイムラグは、避けられません。

「変わらない日本」になって30年ですが、このタイムラグを考えると、次の10年も依然として変わらない確率が高いことがわかります。

2020年の日本の一人当たりGDPは、4万ドルで、24位です。
2010年の日本の一人当たりGDPは、4万5千ドルで、18位です。
タイムラグを考えると、2030年の日本の一人当たりGDPは、3万5千ドルで、30位まで下がるでしょう。
その先も、「変わらない日本」のままでいた場合には、経済のクラッシュがおこります。2030年には、世界の経済が、ビジョン中心のサービス経済に転換を完了(デジタル・シフトの完了)しているからです。2030年には、日本経済は、変わっているか、クラッシュしているかの2つの状態しかないと考えます。もはや、経済が、過去30年のように、徐々に低下していく可能性は低いのです。
2030年は、ターニングポイントになると考えます。これが、タイトルに2030年を入れた意味です。

注1:
この手法の最も簡単な利用法は、ニュースの記事を、ヒストリーとビジョンにマーカーペンで色分けしてみる方法(ビジョンのマーカーペン)です。

ビジョンのマークの少ない記事は、将来の変化に関係しないので、読むに値しません。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み