第8話 HV分離仮説と二重過程理論

文字数 1,599文字

(HV分離仮説と二重過程理論の関係を整理します)

検討が錯綜してきたので、ここで、一旦、整理をしておきます。

なお、以下の対応は便宜的なもので、このように考えると理解と応用がしやすいという実用性を重視しています。厳密に言えば、ずれがあります。



表1 HV分離仮説と二重過程理論の関係

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仮説の種類 二重過程理論 HV分離仮説 習熟レベル HV分離仮説の主体

速い処理 システム1 ヒストリー 初心者 ヒストリアン

遅い処理 システム2 ビジョン 上級者 ビジョナリスト


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ヒストリアンとビジョナリストを区別すべき理由は、システム1とシステム2の区別をすべき理由に由来します。

足し算をシステム1で行い、掛け算をシステム2で行う場合、システム2の利用には困難を伴いません。

囲碁の上級者がシステム2を使って、定石にない手を考えるような場合、システム2の使用には、時間がかかるので、持ち時間があります。持ち時間は、ゲームの制約として設けられたもので、より多くの時間があれば、より深く、システム2が使えます。

囲碁の初級者は、一旦覚えた定石を脇において、手を考えなおすところから始めないと、システム2が使えるようにはなりません。これはトレーニングが必要で、ハードルは非常に高くなります。

問題解決に、ビジョンが必要な場合は、問題が簡単には解けないような複雑な場合です。

このような場合に、システム2を使って、ビジョンを作るには、トレーニングをうけて養成された上級者が、時間をかけて検討できることが条件になります。

2020年1月頃から、新型コロナウイルスの感染が拡大しました。感染の初期には、問題解決の検討に必要な時間がとれませんので、システム2を使ったビジョン作成ができず、システム1に頼ることはやむを得ない面があります。

しかし、感染拡大から、6か月を越えてくれば、検討時間は、十分にとれます。それにもかかわらず、ビジョンのある対策が出来ないのであれば、検討方法に問題があったと考えられます。簡単に言えば、システム1の緊急対策から、システム2の抜本対策への切り替えに失敗したと推測されます。

新型コロナウイルスの感染拡大は、最近では、前例のない状態です。

感染拡大対策は、感染拡大が先に広まった中国、アメリカ、欧州などで、行われています。これらの先行事例(ヒストリー)を活用するのがヒストリアンの手法です。海外と我が国では、前提条件が異なりますので、ヒストリアンのシステム1を使った手法では、早晩行き詰ります。行き詰ってから考える(検討する)という手順では、十分な検討時間がとれませんので、システム2はつかえず、闇雲にシステム1を繰り返し使うことになります。システム2を使うためには、感染が一旦下火になって、時間的な余裕がある時に、抜本対策のビジョンをつくる手順が必要になります。しかし、2年たっても、保健所が、ファックスを使っているように、ビジョンのある対策(システム2の活用)は、失敗しています。

ここには、システム1からシステム2への切り替えの失敗という失敗のパターンがみられます。

次に、この問題を考えてみます。

なお、カーネマンは、システム1とシステム2は、問題をわかりやすく説明するための概念であって、実体ではないといっていますが、最近の脳科学では、脳の思考パターンは4タイプに分かれ、そのうちの1番目と2番目に、多く出現するパターンは、カーネマンのシステム1とシステム2に対応することが分っています。つまり、二重過程理論は、脳の実体に対応していると考えられます。

引用文献

カーネマン ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 早川(2014)

虫明 元 学ぶ脳 岩波科学ライブラリー272 (2018)
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