第16話 メルケル前首相のミンスク合意と北方領土交渉

文字数 1,990文字

(もう少しヒストリーの再構築の事例をあげてみます)

1)  メルケル前首相の功罪

ウクライナ危機の分岐点に、メルケル前首相の引退が関係していた可能性があります。

今回は、これを例に、歴史の再構築について考えてみます。

メルケル前首相は、引退前の2021年7月に、ノルドストリーム2計画についてバイデン大統領の了解を得ています。


メルケル前首相の引退後、FDP(ドイツ自由民主党)が、ノルドストリーム2計画からの撤退方針を出します。

ドイツでは、ロシアの挙動の主因のひとつが、ノルドストリーム2計画からの撤退方針であると踏んでいて、ゆえに2022年2月上旬では、多くの人が「ドイツがノルドストリーム2計画を再び推進する」ことと引き換えに、ロシアが「ウクライナ国境から軍を撤収」させるだろう、とみていました。


次のような分岐点が考えられます。

(1)メルケル前政権がもう少し続いていて、ノルドストリーム2計画からの撤退方針がなかった場合

(2)メルケル前首相が、ロシアの占領を既成事実化するミンスク合意を作らなかった場合

(1)は、政権末期には、地方議会での支持率が下がっていたので、その点では、あり得ない仮定ですが、あまり影響がなかったように思われます。

(2)は、ミンスク合意の内容が玉虫色で、解釈に幅があることが、問題を難しくしています。

ゼレンスキー政権は、政権についてから2年程は、ドンバス(ドネツク、ルガンスク両州)については、ロシアの実効支配を動かせないという消極的な姿勢でしたが、その間も境界地帯で紛争が絶えませんでしたので、その後、可能な範囲で、ロシアと対立する政策に方針を転換しています。

ミンスク合意の玉虫色の合意は、混乱のもとでした。

特に、ドンバスのロシアの実効支配について、明確な記載をしなかった(できなかった)ことが、尾を引いています。

ミンスク合意によって、ドンバスの大きな侵略は、一旦停止しましたが、小競り合いは続いていました。

ロシアは、ミンスク合意は、ドンバスの実効支配を認めたものと解釈しますが、ウクライナは、そのような立場に立っていません。

ミンスク合意は、ドイツには、ノルドストリーム2ができるまでの間、ウクライナを通過している天然ガスのパイプラインの安全な使用を可能にするメリットをうみました。しかし、ウクライナとロシアのメリットは、はっきりしません。

ミンスク合意の時点で、ロシアの侵略は国際法上の問題であると整理することも出来た訳ですが、仮にそうしても、軍事力の小さなウクライナがロシアに対抗できた訳ではありません。

現在のウクライナの軍事力は、ロシアより小さいですが、それでも、ミンスク合意の時と比べれば、各段に大きくなっています。

さて、このような検討をしても、直ぐに答えがでる訳ではありませんが、次のことがわかります。

(1)ヒストリーの再構築は、非常に時間と労力のかかる作業です。

(2)評価をどの時点で行うかが問題です。

ミンスク合意の直後であれば、さしあたり、大きな紛争を押さえたので効果があったといえます。

しかし、ウクライナ侵攻の時点でみれば、問題を先送りしたともいえます。

2) 北方領土交渉

北方領土交渉において、どのくらい実効性のある外交カードがあったのか、交渉の進展の履歴がよくわかりませんので、内容に入らないことにします。

ただ、現在、日本は、ロシアの敵対国リストにはいっていますので、当面は、交渉ができない状態にあります。その原因は、ウクライナ侵攻への日本の対応にあります。

これから、次の点がわかります。

(3)ヒストリーの再構築をする場合に、影響を与える要素の歴史は、まとめて検討する必要があります。

北方領土交渉の記録はあると思いますが、ウクライナ侵攻への日本の対応を除いて、北方領土交渉だけを取り出して、再構築しても、本質がみえてきません。

影響を与える要素の歴史をまとめて検討するのは、ヒストリーの再構築を非常に困難にしますが、実際に、要素間に影響があれば、影響のある要素を考慮しなければなりません。

この例は、北方領土交渉ですが、2014年11月に「まち・ひと・しごと創生法」が制定されて以来、過疎化が進む地方問題にも同じ困難があります。

地方問題では、少しでも上手くいっている地方都市があれば、成功事例としてもてはやされますが、成功事例と呼ばれた政策も、2、3年で行き詰ります。これは、成功したという歴史をコピーして使うことを考えているからで、ビジョンによるヒストリーの再構築が行われない限りは問題解決はできません。


引用文献

マライ・メントラインがウクライナ情勢を解く。エネルギー依存問題だけではない、ロシアに対してドイツが弱腰な「深い」理由 2022/02/09 QJWeb マライ・メントライン
https://qjweb.jp/journal/65796/
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