第11話 ジョブ型雇用はなぜ難しいか

文字数 2,835文字

(ジョブ型雇用は、ビジョナリストの世界で、ヒストリアンの手には負えないことを説明します)

年功型雇用は、先輩の仕事ぶりをOJT(On the job training)で学ぶヒストリアンの世界です。事業の継続性は確保されますが、技術革新は進みません。もっとも、ヒストリアンの年功序列が確立したのは、1980年代で、それまでは、技術も事業もありませんでしたので、海外から学ぶか、試行錯誤を繰り返していました。1980年代になって、日本の企業がある程度成功すると守りの意識が強くなり、ヒストリアンが幅を利かせます。

今世紀に入って、技術進歩に取り残されるようになって、ジョブ型雇用や成果主義の導入が図られます。

そのとき、「採点をして、点数を給与に反映する」のが成果主義であるという誤った認識が広まっています。

成果主義では、各自が、1年間に達成する目標を設定して、その達成度に対して評価がなされます。しかし、この方法では、達成目標を低くすれば、評価が上がるので、訳がわからなくなります。

こうした誤解が生じるのは、成果主義は、ジョブマーケットとジョブ型雇用の一部であることを無視しているためです。

筆者は、ジョブ型雇用は、サッカーのチームか、オーケストラのようなものだとイメージしています。
サッカーのチームは、攻撃型か、守備重視か、スタープレーヤー中心か、いろいろなチームのデザインが可能です。チームのデザインには、各プレーヤーに求められる資質、プレーヤーに支払うことのできる年収の制約などを考える必要があります。

こうしたイメージであれば、各自が、1年間に達成する目標を設定して、その達成度に対して評価することは自然な流れです。

チームを作るには、プレーヤーだけでなく、トレーナー、ドクターなどのサポート体制、ホームグランドの整備、サポーターへのサービス、チケットの売り上げにも配慮する必要があります。これら全てを監督が行う訳ではありませんが、チームとして機能できるように調整を行う必要があります。

サッカーのチームを作るには、ビジョンとデザインが必要です。プレーヤーの評価も、実績のある年寄りの俸給は高いので、若くて有能で、今後伸びそうな人材をスカウトする必要があります。

日本の企業の年功型雇用は、新卒で会社に入った場合、大学の教育は役に立たないので、OJTで上司の仕事を見よう見まねで学習する人材育成をおこなってきました。社内のいろいろな部署を転勤して、一通りまわるような方法です。

この方式では、新しい仕事や、技術革新には、対応できませんし、プレーヤーをスカウトするように外部人材を投入するノウハウも身に付きません。その結果、サッカーチームの監督のような人材を育成できません。



2022年3月に、アクセンチュアが、社員に違法な残業をさせていたとして書類送検されました。ソフトウエア・エンジニアの男性社員1人に、1か月140時間余りの残業をさせた労働基準法違反の疑いです。


デスマーチ(死の行進)は、IT業界での過重労働が起きているプロジェクトを指す俗語です。鈴木貴博氏は、上司の能力が低いコンサル会社では「デスマーチ」が起きやすいといいます。

上司の能力が低い会社が多いのは、ビジョンを基にしたジョブ型雇用を行ってこなかった結果、ジョブ型雇用ができる上司が育たなかったためと思われます。

楽天モバイルCEOには、タレック・アミン氏がついています。
ウーブン・プラネット・ホールディングスのCEOには、ジェームス・カフナー氏がついています。

日本のCEOの給与は、アメリカのCEOの給与より安いと言われますが、日本の企業は、ビジョンをもとに、ジョブ型雇用ができる人材を育てられなかったことがわかります。

今後のジョブ型雇用の展開を考えると、日本の大学を出て、新卒で、日本企業に就職することは、リスクになってくると思われます。

2022/03は、ウクライナ戦争で、ウクライナ人、ロシア人とも、メキシコ経由で、アメリカを目指す人が増えています。

日本の若者が海外を目指す日がくるのも、さほど遠くないかも知れません。

日本では、大学の学科や成績は、新卒の初任給に反映されません。つまり、学習することによる賃金上昇のモチベーションはありません。

出口治明氏は、「日本を“低学歴社会”にした責任は、100%企業にある、あるいは社会の構造にある。経団連などの偉い人たちを見れば一目瞭然で、戦後の製造業の工場モデルで成功体験を積み重ねてきた人たちが、今、日本経済の司令塔になっている。経済をスポーツに例えれば、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代に、野球(製造業)で“世界一”になったことを過信して、いまだに毎日遅くまで素振りをしないと勝てないと思い込んでいる。でも世界はサッカー(サービス産業)の時代になっている。(中略)ユニコーン企業を生むのは、女性・ダイバーシティ・高学歴である」といいます。

経団連は2022/03/11、日本経済の活性化へ起業を促す提言書を発表しました。

「2027年までの5年で起業数を10倍に増やすとともに、企業評価額が10億ドル(約1160億円)以上の未上場新興企業『ユニコーン』を約100社生み出す目標を設定。政府には支援の司令塔となる『スタートアップ庁』の創設を求めました」

ここには、ビジョンはありません。あるのは、「デジタル庁」の焼き直しのヒストリアンの視点です。また、金額や数は、大量生産の製造業の時代の指標であり、ナンセンスです。たとえば、テスラに見られるように、アメリカでは、企業価値は、ビジョンで決まります。

さらに、ユニコーン企業を生む「女性・ダイバーシティ・高学歴」は、どこかに行っています。

教育と働き方を変えずに、簡単にユニコーン企業が得られるというヒストリアンの発想は、ビジョナリストを追放するので、有害です。

引用文献

アクセンチュア過重労働に潜むコンサルの業界悪、残業が消えない真の理由 2022/03/11 dダイヤモンド 鈴木貴博
https://diamond.jp/articles/-/298719


対立するロシアとウクライナでも亡命希望者たちは協力、メキシコ経由で米国目指す 2022/03/11 Newsweek
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98278.php

「日本を低学歴社会にした責任は100%企業にある」 2020/12/16 ダイヤモンド 出口治明 https://diamond.jp/articles/-/256603

「ユニコーン」5年で100社に 経済活性化へ起業促進 経団連提言 2022/03/12 JIJI.COM
https://news.yahoo.co.jp/articles/b720dc8007d2ec6186b2f8e60a9213617a9a9972
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