第21話 ビジョナリストの選挙と投票制度
文字数 2,369文字
(離散民主主義から連続民主主義へと世界が、変化する可能性があります)
オードリー・タン氏が、指摘していますが、DXは、民主主義や選挙の制度を大きく変えるポテンシャルがあります。ここでは、選挙と投票制度のビジョンを検討してみます。
1)デジタルとアナログのパラドックス
デジタルデータは、ビットに還元できる離散値をとります。デジタルデータの情報は、保存する媒体の種類には、依存しません。
アナログデータは、物理的または化学的な性質をもつ物質として保存されます。アナログデータの情報は、保存する媒体に依存します。
自然界にある信号はアナログなので、デジタルに変換するときに、情報の一部が失われると考える人もいます。(注1)
デジタルカメラとフィルムカメラ、ネット配信音楽とLPレコードを考えれば、以上の性質は理解できます。
人間の思考はアナログです。
コンピュータは、デジタルです。
そう考えると、人間の思考の方が、無理に離散化して、割り切りをしない丁寧な検討ができると思われます。
しかし、人間のワーキングメモリーは非常に小さく7個程度なので、この主張は正しくありません。
人間より、ワーキングメモリの大きなコンピュータは、はるかに柔軟な情報処理が可能です。
データを連続的に処理できるのはコンピュータで、人間には、離散的な処理しかできません。
つまり、一般的に思われているのとは逆に、ワーキングメモリーを節約するために、「人間は、コンピュータよりはるかに、デジタル化した情報処理が好き」であるというパラドックスが存在します。
人間の情報処理能力が小さいために、人間は時には無理に離散化をします。
極端な場合には、AかBか、1か0かといった2値分布にもとのデータを当てはめます。
連続分布を2値分布に当てはめれば、問題が発生するのは当たり前です。
しかし、コンピュータのアシストを使えば、この問題は回避できます。
注1:
この論理は、ノイズを無視しています。ノイズレベルより高い周波数でサンプリングしても、得られたデータに意味はありませんので、離散化でかならず元のデータの情報の一部が失われる訳ではありません。
2)選挙制度のビジョン
選挙制度は、極端な離散化が行われている例です。しかし、DXを併用すれば、無理な離散化を行う必要はありません。
1人1票という制度に含まれるビジョンを考えるべきです。
政治が、政策によって、未来への意思決定の手段であるというビジョンに立てば、投票権は、未来の変更によって受ける影響の大きさに従うべきです。
その場合には、
「1票の重みは、残存生存日数(残存寿命)に比例すべき」
です。
これは、紙と鉛筆の投票では、不可能ですが、電子投票であれば、簡単にできます。
3)投票制度のビジョン
選挙で当選した議員は、議会で投票して、議案の採決に参加します。
このときも、1人1票は、重み付け補正をしないルールです。このルールは、処理は簡単ですが、ルールを正当化するビジョンを考えることは困難です。
議員が有権者の代表として、有権者に代わって議会で投票するというビジョンであれば、
「各議員の投票には、有効投票数に応じた重みをつけるべき」
です。
現在、1票の格差をめぐって、裁判所の判決が毎回だされています。人口数の少ない選挙区を統廃合すると、地方の意見が集約されなくなるのが、1票の格差を温存した選挙割が続く理由らしいですが、各議員の投票に、有効投票数に応じた重み補正係数をかければ、選挙区割を変えずに、1票の格差をゼロにできます。
4)まとめ
選挙制度は典型的な例ですが、離散化を無理に行うと障害が多く発生します。
この分野では、ヒストリーを離れて、ビジョンを再構築する余地が多くあります。
なお、日本では、新制度を作る場合に、「特区」が検討されます。しかし、本来の「特区」は、逆に、旧制度を温存する地域に適用すべきものです。
ビジョンが成功する確率は10%もあれば良いほうです。「変わらない日本」をかえるためには、試行錯誤を繰り返すことが必要です。
2022/02/03のニューズウィークのダイアナ・チョイレーバ氏の記事は、この点では、示唆に富んでいます。この記事を読むと、日本の総理大臣は習近平氏に、似ているように思われます。
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中国の開発モデルが成功する上で最も重要なもう一つの要素は、鄧小平の言葉を借りれば「石を探りながら川を渡る」こと、つまり試行錯誤を繰り返しながら政策を発展させるやり方だ。中国は特定の改革の目的について幅広い合意が得られた後、「試しにやってみる」ことでイニシアチブや改革を生み出してきた。
各種政策を省レベル、さらには全国に展開する前に、地元レベルで試験運用を行い、実験を奨励し、それぞれの現場に合わせた解決策を探ることで、中国は最善の道を見出してきた。中国が今後、ますます複雑化し、不透明さを増しつつある状況の中で成功するためには、この点で妥協することは許されない。
だが中央に権力を集中させ、国家統制を強化する習近平のやり方により、中国の開発モデルはトップダウン型に振れつつある。地方での試験運用は、ごく一部の例外を除いて検討もされない。粛清の繰り返しが政治的な疑心暗鬼を生み、地元当局者たちは既成の枠からはみ出すことを恐れている。そんなことをして政敵につけ込まれれば、キャリアが終わってしまうからだ。
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北京冬季五輪は習近平式「強権経済」崩壊の始まり 2022/02/03 ニューズウィーク ダイアナ・チョイレーバ
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/02/post-97994.php
オードリー・タン氏が、指摘していますが、DXは、民主主義や選挙の制度を大きく変えるポテンシャルがあります。ここでは、選挙と投票制度のビジョンを検討してみます。
1)デジタルとアナログのパラドックス
デジタルデータは、ビットに還元できる離散値をとります。デジタルデータの情報は、保存する媒体の種類には、依存しません。
アナログデータは、物理的または化学的な性質をもつ物質として保存されます。アナログデータの情報は、保存する媒体に依存します。
自然界にある信号はアナログなので、デジタルに変換するときに、情報の一部が失われると考える人もいます。(注1)
デジタルカメラとフィルムカメラ、ネット配信音楽とLPレコードを考えれば、以上の性質は理解できます。
人間の思考はアナログです。
コンピュータは、デジタルです。
そう考えると、人間の思考の方が、無理に離散化して、割り切りをしない丁寧な検討ができると思われます。
しかし、人間のワーキングメモリーは非常に小さく7個程度なので、この主張は正しくありません。
人間より、ワーキングメモリの大きなコンピュータは、はるかに柔軟な情報処理が可能です。
データを連続的に処理できるのはコンピュータで、人間には、離散的な処理しかできません。
つまり、一般的に思われているのとは逆に、ワーキングメモリーを節約するために、「人間は、コンピュータよりはるかに、デジタル化した情報処理が好き」であるというパラドックスが存在します。
人間の情報処理能力が小さいために、人間は時には無理に離散化をします。
極端な場合には、AかBか、1か0かといった2値分布にもとのデータを当てはめます。
連続分布を2値分布に当てはめれば、問題が発生するのは当たり前です。
しかし、コンピュータのアシストを使えば、この問題は回避できます。
注1:
この論理は、ノイズを無視しています。ノイズレベルより高い周波数でサンプリングしても、得られたデータに意味はありませんので、離散化でかならず元のデータの情報の一部が失われる訳ではありません。
2)選挙制度のビジョン
選挙制度は、極端な離散化が行われている例です。しかし、DXを併用すれば、無理な離散化を行う必要はありません。
1人1票という制度に含まれるビジョンを考えるべきです。
政治が、政策によって、未来への意思決定の手段であるというビジョンに立てば、投票権は、未来の変更によって受ける影響の大きさに従うべきです。
その場合には、
「1票の重みは、残存生存日数(残存寿命)に比例すべき」
です。
これは、紙と鉛筆の投票では、不可能ですが、電子投票であれば、簡単にできます。
3)投票制度のビジョン
選挙で当選した議員は、議会で投票して、議案の採決に参加します。
このときも、1人1票は、重み付け補正をしないルールです。このルールは、処理は簡単ですが、ルールを正当化するビジョンを考えることは困難です。
議員が有権者の代表として、有権者に代わって議会で投票するというビジョンであれば、
「各議員の投票には、有効投票数に応じた重みをつけるべき」
です。
現在、1票の格差をめぐって、裁判所の判決が毎回だされています。人口数の少ない選挙区を統廃合すると、地方の意見が集約されなくなるのが、1票の格差を温存した選挙割が続く理由らしいですが、各議員の投票に、有効投票数に応じた重み補正係数をかければ、選挙区割を変えずに、1票の格差をゼロにできます。
4)まとめ
選挙制度は典型的な例ですが、離散化を無理に行うと障害が多く発生します。
この分野では、ヒストリーを離れて、ビジョンを再構築する余地が多くあります。
なお、日本では、新制度を作る場合に、「特区」が検討されます。しかし、本来の「特区」は、逆に、旧制度を温存する地域に適用すべきものです。
ビジョンが成功する確率は10%もあれば良いほうです。「変わらない日本」をかえるためには、試行錯誤を繰り返すことが必要です。
2022/02/03のニューズウィークのダイアナ・チョイレーバ氏の記事は、この点では、示唆に富んでいます。この記事を読むと、日本の総理大臣は習近平氏に、似ているように思われます。
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中国の開発モデルが成功する上で最も重要なもう一つの要素は、鄧小平の言葉を借りれば「石を探りながら川を渡る」こと、つまり試行錯誤を繰り返しながら政策を発展させるやり方だ。中国は特定の改革の目的について幅広い合意が得られた後、「試しにやってみる」ことでイニシアチブや改革を生み出してきた。
各種政策を省レベル、さらには全国に展開する前に、地元レベルで試験運用を行い、実験を奨励し、それぞれの現場に合わせた解決策を探ることで、中国は最善の道を見出してきた。中国が今後、ますます複雑化し、不透明さを増しつつある状況の中で成功するためには、この点で妥協することは許されない。
だが中央に権力を集中させ、国家統制を強化する習近平のやり方により、中国の開発モデルはトップダウン型に振れつつある。地方での試験運用は、ごく一部の例外を除いて検討もされない。粛清の繰り返しが政治的な疑心暗鬼を生み、地元当局者たちは既成の枠からはみ出すことを恐れている。そんなことをして政敵につけ込まれれば、キャリアが終わってしまうからだ。
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北京冬季五輪は習近平式「強権経済」崩壊の始まり 2022/02/03 ニューズウィーク ダイアナ・チョイレーバ
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/02/post-97994.php