第5話

文字数 2,625文字

ヨウコとレイカは、階段を二階三階そしてさらに四階へと上がってきた。

四階の廊下は今まで見てきたフロアとは何が異なり、異質ななにかが存在しているようだった。

ヨウコが見ている、北の方角に垂直に延びる廊下の先には、暗がりが支配していて不吉な何かの気配があるような気がしたが、気のせいにしてその若干感じた悪寒を振り払うように身震いしてみた。

「ねぇ、ここなんかちょっと寒くない?」ヨウコがレイカにつぶやくように言った。

「え?・・・まぁそう言われてみれば、もうすぐ12月だし、たぶん窓割れてるから冷たい風が入ってきてるんだよ」

「まぁ確かにそうかぁ。でもなんかいまさっきゾクッとしたんだよね・・・・寒風吹きづさんで悪寒と勘違いしたってことかなぁ?そういやさっきレイカ、このビルが廃墟になる前は、普通の会社とかも入ってたって言ってたよね」

「うん、でも何階だとかは知らないよ」聞かれたレイカはまゆを少し潜めながらそう答えた。

「そりゃそっか。私たちが生まれる前のことだもんね」

ヨウコはひとりごちたようにそう言って、北へ延びる廊下へ一歩踏み出して首を突っ込むように奥の暗がりを覗いていみる。

中層階は左右と背後の三方を新しいビルに挟まれていているせいで、外の光が入りにくい。だから三階の廊下の奥は濃い暗闇があるだけで、シーンと静まっている。

「真っ暗で何も見えん。けど不思議なのはこの階は、特に物が散乱してたりしないし逆にぜんぜん綺麗な感じだよね。ここだけは誰か掃除してんのかな?よくわかんないけど、ここだけ見ると確かに以前このビルにもちゃんとした会社とかも入ってたのかって思えるね・・・」

ヨウコはとりあえずひとり納得したのか、それ以上先には行かずに、目的の五階へ向かうために踵を返して階段へと戻ろうとした。

とそんな時、唐突にレイカのスマホが鳴り出した。耳障りの悪い電子ビープ音が鳴り続ける。
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「え?なんで!?こんな着信音聞いたことないんだけど」と言ってレイカは自分のスマホをまじまじと見ながら驚いた。

「なに?どうした?」ヨウコもその様子に驚いてレイカに尋ねた。

「なんかね、真っ黒な画面に英語が表示されてるんだけど」

「なんて?」

「”Welcome to the new game."って表示が点滅している」

「なに言ってんの?」

レイカがその画面を軽くタップしてみると、ビープ音が鳴り止んでその後画面が切り替わり、そこには次のようなメッセージが表示されていた。

「”Hello, my dear horror game fans!.”、つまり、ホラーゲームのファンへってこと意味かな?・・・ 何これ?」

「あんたのスマホをハッキングされたんじゃない?」

「ハッキングってなにそれ?・・・・あれ?また英語メッセージが変わった。ねぇヨウコ!これの意味分かる?」

レイカのスマホを受け取ったヨウコがそれを読む。

「なになに・・・・うーんと”This game is called “Escape from the Haunted Building”. The goal is to find the exit and escape from the building. Sounds easy, right?”だって。日本語にすると「このゲームは『悪霊ビルディングからの脱出』だ。出口を見つけて脱出できたら終わりだ。簡単だろ?」って感じ?」

「なんでそんなのが私のスマホに送られてくるのよ?」レイカが尋ねる。

「私に聞かれてもわかんないけど」ヨウコが答えた。

「そりゃそっか・・・わたしもいきなり送られてきてさっぱり意味わからないよ」

「ん?・・ってまた画面が変わったよ!? ”You have been invited to join the game by the Equinox. Do you accept? Yes/No”・・・。Equinoxって単語知らんけどなんか、「この脱出ゲームに参加するか?」って聞かれてるみたい・・・・」

「ハッキングとかって分からないけど・・・・なんか「悪霊ビルからの脱出」ってゲームちょっと面白そうじゃない??」

「いやいや止めたほうイイって。でもどっちにしろこの画面をタップしないとこの状態から抜け出せないみたい・・・・。とりあえず「No」を押しておこうよ。そもそも私たちは五階へ行くのが目的なんだからゲームなんてやってる場合じゃなって」

「そりゃそうだよね、それじゃNoで」

ヨウコは頷くと画面のNoの表示ボタンをタップした。すると画面はホワイトアウトした後しばらくすると通常のロック画面に戻っていた。

「おっと、戻ったみたい!何だったの?マでビックリさせんなっての!」と言ってヨウコはレイカにスマホを投げ返した。

「よし!ちゃんとログイン出来たよ。普通に使えるしもう大丈夫みたい。いやほんとマジでよかった〜。もうスマホ終わったと思った」

「わたしもあんな画面はじめて見た。スマホもハッキングとかされることあんだね」

「にしてもこのいたずらした奴が何処かにいるんでしょ?」レイカがまゆを潜めながらつぶやく。

「うん。スマホもネット経由で世界中につながってるからさ、日本人とは限らないし、どっかのバカ野郎だよ」

「にしても、なんでここで起こるんだろ?もしかしてこの廃墟に関係したりしてるんじゃないのかな?ってちょっと怖いんだけど・・・」

「タイミング良すぎるっていうか、空気読んでハッキングしたんじゃね?なんて知らんけどさ。しても、そのスマホ後でショップ持って行って見てもらったほうがいいんじゃない?」

「うん、そうする」

と言うと少女たちは笑いながら階段へ戻っていって、上の階へと上っていった。


すると真っ暗で何も見えなかったはずの廊下の奥の床の一部がすこし明るくなっている。そのすぐ右にある部屋から漏れてきた光のようだ。それはテナントようのメインスペースの部屋の中のどこかか光が灯っていて、青白く不気味な光が明滅を繰り返していようだった。


ここは不思議なことがよくある建物だ。さっきスマホに唐突に表示されたメッセージの誘いを断った彼女たちの選択は正しかったのかもしれない。

しかしながら彼女たちは結局五階へ向かっていったのだから、そこでは間違いなくおかしなことが待ち構えているに決まっている。しかし彼女たちの有り余った好奇心は引き返す選択などない。

To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。勉強は得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格。根はやさしいがさばさばしているため性格がきついとクラスメートに思われがち。両親の影響のせいで懐疑派だがオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。両親に大事そだてられていて正確は優しくおっとりしているが、素直すぎてなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも実は苦手だけど痛い目にあっても大して気にしないし見た目より図太い。

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