第6話
文字数 2,235文字
「五階まで来たけど・・・」
「うん・・・」
他の階と特に変わらないのだが、この五階で撮影されたという謎の怪奇動画を見た後では、薄気味悪さは倍増していた。
ヨウコとレイカは階段スペースから、西側の窓際を北へと延びる廊下を足音を立てないように奥の方へと歩いていった。十数メートル先に進むと右手に扉のない入り口があって簡単に中を覗くことが出来る。
「さっき見たYouTubeの動画だとさ、手前に暗い部屋があって、その先にまた別の部屋があるらしくてそこの明かりが手前に漏れてた感じだったよね」
「うん・・・でももう見なくてもいいかも」
小さな声でそう答えたレイカの表情には若干の怯えが伺える。
後ろから弱気な声が聞こえたヨウコは振り返って
「何いってんの?いくよ!」
ヨウコが喝を入れるようにそう言っても、レイカはやっぱり気が進ま無い感じで当然足は重かった。でも意を決したように一つ大きく深呼吸してからヨウコの後に続いた。
ヨウコは腰を落としながら用心深く中に入ってみると、そこは街灯などの外の弱い光が少しだけ入ってる薄暗い部屋だった。テナントビルだから部屋の平米としては結構な広さはあるが、例外なく廃墟として荒涼とした様態を呈していた。だた一階などに比べれば、床は誰かがたまに掃除していると思えるほど綺麗で歩きやすかった。
二人がその空間の中央あたりに立ってくるりと見回してみても誰かが潜んでいる気配も、そこに誰かが居た形跡も見当たらなかった。ガラス窓からは周囲のビル群とそこに灯る細かな照明、遠くの路上に立つ街灯の灯りやネオンの光が密かに輝く町並みを見渡すことが出来た。
「なーんだぁ。別になんにも変わったところはないよ」
「あぁ、なんかよかった・・・」
「なにその安堵感。レイカマジでこわかったの?」
「・・・怖いに決まってるよ。ヨウコだってあの動画みて少しは信じてたでしょ?」
「うん、確かにちょっとはね」
「でしょ?だってあの動画の中のキー&ウッシーのやりとりってさ、リアルな臨場感があったし」
「うん、それは認めるよ。だから確かめとこうって思ったんだけどさ、結局は何もなくてよかったじゃん」
「うーん・・・ってことはあれはやっぱりキー&ウッシーふたり組のヤラセだったってことなのかな・・・?」
「それはなんとも言えんけど、オカルトやスピった話を簡単に信じると馬鹿を見るって、これでわかったんじゃない?」
「なんかその言い方悔しいけど・・・・確かにそうかも。そっかーたぶん視聴者の為に、ネタで話盛っちゃったんだろうね」
「うん、ようするにエンタメでしょ。あの動画の中の老人とか倒れてる少女とかいうのも、全部モザイクかかってるから見てる側は何がなんだかわからないし、嘘でも追求のしようがないもんね」
「確かに言われてみればそうだね。私はけっこう真面目に見てたんだけどなぁ。なんかがっかりだし自分が馬鹿みたいだよ」
「まぁいい薬と思えばいいっしょ?去年元総理大臣が殺されちゃった関係の話で出てきたやばいカルト宗教とかだと、ツボかわされるらしいよ。しないと家が没落するぞってスピリチュアルを悪用されてホントに買っちゃう人も居るんだから」
「確かにそうかも」
「だよ、まぁそれじゃ何もなかったとわかったことでそろそろ帰ろうか?」
「うん」
と言って、二人は部屋からでようと出入口へと向かっていった。
するとその背後で、部屋の北側の壁の一部に人知れず黒いモヤのような何かがもぞっと現れて、それが音もなく蠢き始めた。
その黒いモヤは真円のような綺麗な球体を呈しながら、物理空間を飲み込んでゆく。同時にその黒い中心から新たな空間を吐き出し拡大し、元ある空間に成り代わっていった。それは手練のマジシャンのようにあっという間のことで、黒い球体もすでに消えていた。
そこに生まれた新たな空間の奥に白い壁があり、一つ付いている出入口は開いていて、奥から光が漏れてくる。その空間はその存在を表明するように、黄昏時はとうに過ぎ去った後の暗かったはずのその部屋の四方の壁に光の放射が浴びせていた。
その淡い光は、その場から去ろうとしていた少女たちの後ろ姿も照らしていた。
背中に当たる光の暖かみを感じたのか、二人はほぼ同時に振り返った。そしてさっきまであったシーンとのあまりの変化に唖然として、その場に棒立ち状態で照らしてくる光の先を見つめていた。
「え?」
「これって・・・・あの部屋?」
「わかんないけど・・・・え?・・・そうだよね」
「だよね、さっきまで暗い部屋だったもん」
「うん・・・」
「ってことわキー&ウッシーのあの動画は嘘じゃなくて・・・・」
「で、でもどうしよぅ・・・・帰る?」
「いや・・・もう行くしかないでしょ。このまま帰るわけにはいかないよ。だってこれは間違いなく本物だってことだから!」
「いやだからこそ帰ったほうがいいんじゃない?」
「レイカは帰ってもいいよ。私は行く。だれか助けが必要な人が居るかもしれないし」
「まぁあんたならそう言うよね・・・はぁ・・・・わたし一人だけで帰れないし。わかったよ。でも、見るだけだよ。てかなにかやばかったらすぐに逃げるからね!?」
「もちろん、危なそうならわたしも即行逃げるよ」
「OK、それじゃ・・・・いくか」
そう言う二人は、ゆっくりと差してくる光の方へと歩いて行った。部屋の中からは何も聞こえてこない。ただ光はまるで意思を持って部屋へと招き入れるかのように二人は一歩また一歩と近づいてゆく。
つづく
「うん・・・」
他の階と特に変わらないのだが、この五階で撮影されたという謎の怪奇動画を見た後では、薄気味悪さは倍増していた。
ヨウコとレイカは階段スペースから、西側の窓際を北へと延びる廊下を足音を立てないように奥の方へと歩いていった。十数メートル先に進むと右手に扉のない入り口があって簡単に中を覗くことが出来る。
「さっき見たYouTubeの動画だとさ、手前に暗い部屋があって、その先にまた別の部屋があるらしくてそこの明かりが手前に漏れてた感じだったよね」
「うん・・・でももう見なくてもいいかも」
小さな声でそう答えたレイカの表情には若干の怯えが伺える。
後ろから弱気な声が聞こえたヨウコは振り返って
「何いってんの?いくよ!」
ヨウコが喝を入れるようにそう言っても、レイカはやっぱり気が進ま無い感じで当然足は重かった。でも意を決したように一つ大きく深呼吸してからヨウコの後に続いた。
ヨウコは腰を落としながら用心深く中に入ってみると、そこは街灯などの外の弱い光が少しだけ入ってる薄暗い部屋だった。テナントビルだから部屋の平米としては結構な広さはあるが、例外なく廃墟として荒涼とした様態を呈していた。だた一階などに比べれば、床は誰かがたまに掃除していると思えるほど綺麗で歩きやすかった。
二人がその空間の中央あたりに立ってくるりと見回してみても誰かが潜んでいる気配も、そこに誰かが居た形跡も見当たらなかった。ガラス窓からは周囲のビル群とそこに灯る細かな照明、遠くの路上に立つ街灯の灯りやネオンの光が密かに輝く町並みを見渡すことが出来た。
「なーんだぁ。別になんにも変わったところはないよ」
「あぁ、なんかよかった・・・」
「なにその安堵感。レイカマジでこわかったの?」
「・・・怖いに決まってるよ。ヨウコだってあの動画みて少しは信じてたでしょ?」
「うん、確かにちょっとはね」
「でしょ?だってあの動画の中のキー&ウッシーのやりとりってさ、リアルな臨場感があったし」
「うん、それは認めるよ。だから確かめとこうって思ったんだけどさ、結局は何もなくてよかったじゃん」
「うーん・・・ってことはあれはやっぱりキー&ウッシーふたり組のヤラセだったってことなのかな・・・?」
「それはなんとも言えんけど、オカルトやスピった話を簡単に信じると馬鹿を見るって、これでわかったんじゃない?」
「なんかその言い方悔しいけど・・・・確かにそうかも。そっかーたぶん視聴者の為に、ネタで話盛っちゃったんだろうね」
「うん、ようするにエンタメでしょ。あの動画の中の老人とか倒れてる少女とかいうのも、全部モザイクかかってるから見てる側は何がなんだかわからないし、嘘でも追求のしようがないもんね」
「確かに言われてみればそうだね。私はけっこう真面目に見てたんだけどなぁ。なんかがっかりだし自分が馬鹿みたいだよ」
「まぁいい薬と思えばいいっしょ?去年元総理大臣が殺されちゃった関係の話で出てきたやばいカルト宗教とかだと、ツボかわされるらしいよ。しないと家が没落するぞってスピリチュアルを悪用されてホントに買っちゃう人も居るんだから」
「確かにそうかも」
「だよ、まぁそれじゃ何もなかったとわかったことでそろそろ帰ろうか?」
「うん」
と言って、二人は部屋からでようと出入口へと向かっていった。
するとその背後で、部屋の北側の壁の一部に人知れず黒いモヤのような何かがもぞっと現れて、それが音もなく蠢き始めた。
その黒いモヤは真円のような綺麗な球体を呈しながら、物理空間を飲み込んでゆく。同時にその黒い中心から新たな空間を吐き出し拡大し、元ある空間に成り代わっていった。それは手練のマジシャンのようにあっという間のことで、黒い球体もすでに消えていた。
そこに生まれた新たな空間の奥に白い壁があり、一つ付いている出入口は開いていて、奥から光が漏れてくる。その空間はその存在を表明するように、黄昏時はとうに過ぎ去った後の暗かったはずのその部屋の四方の壁に光の放射が浴びせていた。
その淡い光は、その場から去ろうとしていた少女たちの後ろ姿も照らしていた。
背中に当たる光の暖かみを感じたのか、二人はほぼ同時に振り返った。そしてさっきまであったシーンとのあまりの変化に唖然として、その場に棒立ち状態で照らしてくる光の先を見つめていた。
「え?」
「これって・・・・あの部屋?」
「わかんないけど・・・・え?・・・そうだよね」
「だよね、さっきまで暗い部屋だったもん」
「うん・・・」
「ってことわキー&ウッシーのあの動画は嘘じゃなくて・・・・」
「で、でもどうしよぅ・・・・帰る?」
「いや・・・もう行くしかないでしょ。このまま帰るわけにはいかないよ。だってこれは間違いなく本物だってことだから!」
「いやだからこそ帰ったほうがいいんじゃない?」
「レイカは帰ってもいいよ。私は行く。だれか助けが必要な人が居るかもしれないし」
「まぁあんたならそう言うよね・・・はぁ・・・・わたし一人だけで帰れないし。わかったよ。でも、見るだけだよ。てかなにかやばかったらすぐに逃げるからね!?」
「もちろん、危なそうならわたしも即行逃げるよ」
「OK、それじゃ・・・・いくか」
そう言う二人は、ゆっくりと差してくる光の方へと歩いて行った。部屋の中からは何も聞こえてこない。ただ光はまるで意思を持って部屋へと招き入れるかのように二人は一歩また一歩と近づいてゆく。
つづく