第1話

文字数 2,993文字

ここは都内の武蔵野郊外の路上。

都立雛城高校の制服を着た女子二人が、最寄り駅の村山台駅へ向かって歩いている。

彼女たちは帰り道の途中で喫茶店に入ってお茶をすることにした。しばらく談笑している内に、話題は最近流行っているネットブリックスのドラマ『恋するメンヘラキャンパス』に移っていた。

「最近ドラマとか見てる?」

「 私はラブコメとか好きかな。なんか面白いのある?」

「うん!ちょうど今あたしネトブリで見てんだけど、恋するメンヘラキャンパスっていうの知ってる?」

「 中身は知らないけど、確かに細菌はやってるらしいよね。でもタイトルからして学園ラブコメみたいな感じ?」

「そうそう!主人公がちょっとメンヘラで、富等井セイラちゃんていうんだけど、彼女が大学サークルの先輩に密かに恋をするんだ。彼女はちょっと陰キャに夢見系はいっててツンデレぽいところもあるんだけど、メンヘラだからストレートに伝えても付かず離れずって感じで。そんな感じで主人公のセイラはつかず離れずを続けて、一方イケメン先輩は心配症だから、彼女の策にハマるようにどっちかって言うと先輩の方がドハマりしちゃうのよ。それでサークルの他の人たちを二人の恋のすれ違いに散々巻き込むわけ。セイラののメンヘラが悪化して最悪入院しちゃったり、最終的に完全に失踪てしまうから、その分脇役やモブが光るしか無いって感じでさ、そっちのほうがキャラ立ちしてるんだよね!名作に名脇役ありって感じでさ。主人公セイラが失踪しちゃった階なんかまるまる一話不在になってしまって、先輩が探し続けるの。ミステリ要素もあるラブコメって感じかな〜」

「なんかそれシナリオ崩壊っていうかめちゃくちゃなだけの気もするけど、ちょっと面白そうかもね。で、そのお目当ての先輩てどんな人なの?」

「先輩は超イケメンで、優しくて面白くて完璧な人なんだけど、実は隠してる秘密があってさ」

「何それ? 」

「ええ〜?それ言ったらネタバレになっちゃうでしょっ」

「えー!なんで気になるじゃん。それくらいいいでしょ教えてよ」

「だめだめ!自分で見なって」

「わかった見るからさー、クイズみたいにヒントくらい教えてよ」

「うーん、ヒントかぁ。じゃあ、ひとつだけ教えてあげる・・・・。先輩の家族が限界突破な家庭なんだわ」

「限界突破?なにそれ〜?その先輩の兄弟とかがウラ組織のフィクサーとかで、限界突破して外事警察に関わっちゃって、先輩は秘密裏に国の安全保障のために兄の手伝いをしていて、兄は日々外国からのスパイを抹殺して死体がつきつぎ先輩の家に運ばれてきて、先輩がその掃除屋をしているとか?」

「な、なんかそれ凄いね。でもそれ以上はあたしもういわないよ〜自分で見て答え合わせしてね」

「もうやだ!気になっちゃうな!今日帰ったらすぐに探してみるよ」

「ちょうど今日木曜日だから、新エピソード更新だよ。私も見るね」

「わたしもお母さんのアカウント見せてもらうよ」

「ところでさぁ今日の数学テストあったじゃん。ヨウコはどうだった?」

「あ、それはまあまあだったかな。ヨウコは?」

「私もそこそこ。でも、あの素因数分解はマジで難しかったよね。あんなクソ長いの私は多分一回死んで生まれ変わらない限り無理だよ」

「うん、私もわからなかった。でも、何人か聞いたけどあの問題は誰も解けなかったらしいよ」

「え、マジで?数学の岡田、共感性欠如でディヒカリティが狂ってるじゃん。生徒に嫌われるタイプ」

「そうだね。でもその分採点は甘くしてくれんじゃないの?」

「あんたは楽観てか甘すぎるって。あいつ人の心がわからないサイコパスって感じじゃん」

「それヨウコ言い過ぎだって・・・・あっそういえばサイコパスで思い出した!村山台駅の近くにある廃墟ビルわかる?」

「え、廃墟なんてあったっけ?」

「うん、この噂はミカからも聞いたんだけど、村山台駅のホームから正面に見える古いビルディングがあってさ、長い間放置されてるでしょ?あそこで、夜中に女の子の助けを呼ぶ声が聞こえるとかいう話。

「村山台なんて毎日使ってる駅だよ。普通の駅だし近くにそんなのありえんて。廃墟とかになると、すぐ無責任な事言う奴いるんだわ」

「いやいや駅じゃなくて廃墟に出るんよ。でね最近はその助けを呼ぶ声が録音されたり、動画に映ったりしてるんだって」

「えーマジで?でもそれは怖いね・・・・でも、それって本当なの?結局音声加工とかしてんでしょ?」

「そういう疑いもあるけど、ネットに上がってるものを見ると、結構リアルなんだって。『殺人鬼に無残に殺された女の子の声が!!』・・・これとかさ」

「 これって何?YouTuberの動画?」

「うん。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシー)っていう配信者なんだけど、日本全国にある廃墟探索とかオカルト調査とかやってるんだよ」

「そうんなんだ。で、このビルディングにもその人たち行ったの?」

「そうそう。そうなんだけど・・・・ちょっと待って・・・・・うーんと・・・・これ! この動画の後編を見てみて。夜中にビルディングに侵入して、中を探索してるんだけどさ・・・・」



「・・・・・・うわっ!ガチ廃墟じゃん。こんなところに入ったら私泣くかも」

「まぁそうなんだけど・・・・・の動画の5分20秒くらいからさ、奥の部屋から女の子の声が聞こえてくるんだよ」

「 えっ、マジで?どれ?……ん!?・・・・確かに・・・・なんか言ってる!?」

「 でしょ!めっちゃ怖いよね!しかもさ、その後にさぁ一番奥に見える非常階段のドアがバタンって閉まっちゃうんだよ」

「それはやばい!逃げられなくなっちゃうじゃん!」

「そうなんだよ!最後に外から非常階段を登って確認にいくんだけどそこには誰もいなくてさ」

「えー!?・・・・ってまあわかってんだけど、どうせそれ誰かがドアを思いっきり占めてるかCGいじってんでしょ?」

「確かに実際はどうかわからないけどね。一応この動画は加工してないって言ってるんだよ。録音もそのままだって」

「どこまで本当かしらんし、それに本当だったらやだし私は信じたくないな」

「あたしも信じたくないけどさ、これは本物だってもう一人のあたしが言ってるの!他にもここの廃ビルの動画、他の配信者もたくさん投稿してるみたいだし。この廃墟こんな近くにあるし見たくない?ね?」

「レイカ・・・・あんたやばい目が怖いって。私は別にいいよ。間違ってそんな声実際に聞いちゃったりしたら、今日夜寝られなくなっちゃうよ」

「あたしもそう思うけどさ、ついつい見ちゃうんだよね~オカルトって怖いけど面白いよね♪」



そんな感じでおしゃべりを終えた彼女たち二人は、喫茶店を出て村山台駅の手前まで来ていた。

目の前の四ツ辻をこのままを直進すると駅入り口。右手に曲がって少し歩いた右手に、噂に上がった廃墟のビルディングがあるはずだ。

「せっかくだからちょっと見るだけ行ってみようか?」

「えっ・・・なになに?なーんだヨウコもやっぱ結局興味あるんじゃん」

「聞いちゃったからには実物をこの目で見てやってもいいかなって思ってさ・・・・で、その廃墟のビルってこっちの方だったよね」

「うん、こっちだよ」


二人は四ツ辻をストレートに駅に向かわずに、なにかの引力に引気寄せられるかのように右へ曲がって廃墟ビルの方へと足が向いた。

つづく
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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。勉強は得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格。根はやさしいがさばさばしているため性格がきついとクラスメートに思われがち。両親の影響のせいで懐疑派だがオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。両親に大事そだてられていて正確は優しくおっとりしているが、素直すぎてなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも実は苦手だけど痛い目にあっても大して気にしないし見た目より図太い。

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