第4話

文字数 1,355文字

ヨウコが先に立って玄関を覆うベニアを脇に寄せて隙間を作った。先にビルの玄関内に入り込んで、その隙間をヨウコが維持している間にレイカもくぐり抜けた。

当然廃墟なので電気は止まっている。外からまばらに光が差し込んでいるが室内は暗く辺りがよく見えない。おまけに湿気がこもっていて、空気は悪かった。

何処かに雨水がたまっているのか水滴が落ちて床を叩く音が反響して聞こえてくる。

ヨウコはスマホのライトを付けて辺りを照らした。


玄関の先にある廊下にもブラウン管のディスプレイや、店で使うような接客用の金属製椅子や電子レンジなどの電化製品に乱暴に置かれていた。その他多くのオリジナルのフォルムを失った瓦礫たちが漫然と床に散らばっていて、それらはところどころ湿っているのか黒光りしていた。天井に貼り付けられた石膏ボードは剥がれ落ちていて、その奥にある電気配線や水道管がむき出しになっていた。

「ガチの廃墟やん」レイカは恐る恐る辺りを見回しながらそんな感想を漏らした。

「たぶんこのガラクタは誰かが持ち込んだ廃棄物だよ。誰かひとりやると一斉にその他大勢がゴミ置き場とだと思うんだよ」

「痛たっ・・・・角にぶつけたぁ(泣)」

「レイカあんたもスマホのライトつけなって」

「うん・・・そうする」

そういうと二人は瓦礫郡をくぐり抜けて先へと進んだ。その先に大きな空間が広がっていた。

「ここがテナント用スペースかな?三十畳くらいある」ヨウコがぐるりと見回ししながらそう言った。

「そうそう、このビル昔はかなり繁盛してたっていうか一階は花屋でね、廃墟になる前はうちの母も使ってたらしいよ」

「そっかぁここ花屋さんだったんだ。いまじゃもう面影なしだね。他の階にも会社とかも入ってたのかな?」ヨウコが尋ねる。

「うん、確かにいろいろ入ってたみたいだよ。託児所とか企画会社とかPC関係とかって感じで聞いたけど」

「レイカすごいじゃん、ちゃんと事前リサーチしてんじゃん」

「うんうんだってさぁ、村山台駅から電車待ってる時に、このビルってめちゃくちゃ目立つじゃん。だからずっと気になってたんだよね。それで母から昔の話とか聞いたんよ」

「まあ確かに廃墟って悪目立ちするよね」

「そうそういつも真っ暗だからねぇにしても、ヨウコは怖くないの?」

「まぁ暗いしジメジメしてちょっと怖いっちゃ怖いけど、案外ここそこまで危なくなさそうだよ。建物自体はコンクリはまだ大丈夫みたいだしね」

「いやいや私が言ってるのはそういう意味の怖さじゃなくてー! ヨウコも見たでしょ?キー&ウッシーの動画の中のあの老人がガチで気狂ってて、本当に五階で篭っているかもしれないじゃん?」

「まあねえ、ワンチャンありえなくはないけど私たちはただ確かめるだけだから。万が一何かあったらすぐに逃げるよ。そして警察呼べばいいし」

「まあそうだね。たしかに相手は老人だしダッシュすればOKっか」

「そうそう、あっこの右に曲がると階段だよ。ちゃんと上に行けるみたい」

「反対側の左の方にはエレベーターの扉があるよ。ああでも電気通ってないからもう動くはずないか」

「電気通ったとしてももうたぶん壊れてるよ。階段で行こう」

「うん足元注意で」


そう言う少女たちは互いのスマートフォンのライトで足元を照らしながらゆっくりと階段を二階へと上って行った。


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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。勉強は得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格。根はやさしいがさばさばしているため性格がきついとクラスメートに思われがち。両親の影響のせいで懐疑派だがオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。両親に大事そだてられていて正確は優しくおっとりしているが、素直すぎてなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも実は苦手だけど痛い目にあっても大して気にしないし見た目より図太い。

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