第10話

文字数 8,379文字

「レイカくんには少しがっかりした。彼女はこらえ性が無いというか君と比べると知性が乏しいみたいだ」

「そんなことなって!レイカは私よりも優しいだけだよ。そよれりレイカは、ちゃんと元の世界に帰れたんだよね」

「ああ、地上の・・・つまり東京の街に帰ったさ。確認したいのかな?」

「出来るの?」

「ああ出来るさ」

「どうやって?」


「フフフ…君は友達思いだからどうしても気になるようだね・・・・それでは証拠を見せてあげよう」 といって老人は杖を軽く振り上げると壁に向かってブンッと振り下げた。すると壁一面に大きな楕円形の24Kはある恐るべき鮮明な画像を浮かび上がらせた。


「なるほど。何だってその杖で出来るってわけね」

「ああそうだ。万物の創造および再構成すらも可能な杖だからね。千里眼のようにどんな映像もいかなる角度からも切り取ることなど造作もないことだ」




 映像は暗がりの屋内を写していた。一人の人影が歩いていてそれは、あの廃墟ビルの屋内を歩くレイカの姿だった。あの廃墟ビルの中にしてもいつも異常に暗い気がした。よく見ているうちに、それは砂埃が屋内中に舞っているせいだと気づいた。何処から運ばれてきたのかわからないが、廃墟の床にある残骸などのオブジェクトにもホコリがたまりつもりそして空中にもひしめき合っているのだ。そのせいで屋外からの日光が入りにいくい状況のようだ。

 階段を一階まで降りてきたレイカは小さく咳き込みながら、ビルの玄関口へ向かって塵が積もった床の上を歩いて行った。見通しがわるくてもさすが昼間の日光が照らし混んでいる玄関口の先の外の世界へ向かって彼女はまるで地獄から逃れるように飛び出た。

 空の見える外の世界にでたものの、彼女の辺り一面には廃墟のビル群が取り囲んでいた。レイカはその様子を見て夢でも見ているかのようにしばらく立ちすくんだ。何処を見ても荒廃したビル群や原型が判別つかない何かの倒壊した黒い影が地面を覆っていた。人影は何処にも見えないし気配もまったくない。

 自分が抜け出てきた怪老人の廃墟ビルが霞むほど、周りのどのビル郡も夥しく破壊し尽くされて、半壊もしくは完全に倒壊し黒く煤けた残骸のコンクリートブロックの塊となって、ススと砂煙によっていぶされたかのような不気味は佇まいを帯び、巨大な残階が立ち並ぶすがた、何代かまえに打ち捨てられた墓地に立ち並ぶ傾く墓石のようも見えた。

 レイカはもう一度振り返って自分が出てきた廃墟ビルディングを仰ぎみると、元あった単に劣化した外壁の姿ではなく、なにかとてつもない強烈な熱線で焼かれた後に汚い砂をぶちまけられたような黒く煤けた壁面がされられていた。

 レイカは言葉もなくその場にへたり込んだ。彼女を取り巻く空には風に吹かれながらまとわりつくように砂埃のような微粒子がそこはかなく舞っていた。彼女は口を手で多いながら咳き込んでいたが、治まると天を仰いだ。

  真上には無情の白銀色の雲で覆われ、遠くの空には押し寄せせめぎあうように行き場をなくした黒い雲が周囲一体を取り囲むように何処までも続いていた。遠くから雷鳴の轟が聞こえてきて、その遠くの黒い雲は局所的に地上へ、かなにか衣のように見えるたなびくまるでベールのような黒い雨を天から地へ向かって降らしていた。その雨は通常のシャワーのような癒やしはなく、その禍々しさは遠目でも容易に見て取れた。人知らぬ間に不遇の死を遂げた者たちの無念のままに固まったドス黒い雨が局所的に各地で地上に瀧のような雨をふらせているのだ。

「これって村山台?なんで?・・・まるでウクライナとかで起きてる戦争でやられたみたいな」


「ああ、まったく君のいうとおりだ。これは戦火に焼かれた東京の姿だよ」


「なに言ってるの?」


「しかも起きてはいけないはずの戦略核攻撃された後の灰とかした日本の姿だよフフフフッ」


「なんで?ここに居た短時間でなんで戦争が!?・・・日本が攻撃されたってこと?」



「いや違うよ。君たちがやって来た日本ではない。レイカくんがいるのはまた別に分岐した東京の姿だ。ヨーロッパでの戦火が飛び火して結果甚大な核戦争に発展したのんだ。最初に核ミサイルを発射したのが結局どちらか誰かはわからない。敵対していた核保有国の各陣営は、互いの国がお互いに責任のなすり合い罵り合いを続けていて相手が先に核攻撃したと言い続けている。順番はともかくロシアはアメリカに、アメリカからもロシアに対して核ミサイルが数えきれないほど打ち交った。そして西側とされた日本にもロシアから核攻撃をされた。もれなく中国からも北朝鮮からも発射されたが、あまりに甚大な被害のせいでどれが実際に着弾したのかもはやよくわかっていないようだ。極東に限らず、核を保有していたほとんどの国家がすべからく懲罰的に敵対していた国にももれなく核攻撃した。世界の陸地の7割が核で焼かれた。愚かなように見えるが、これも自然界でよくあるチェーン・リアクションだ。限られた世界のリーダーたちは核シェルターに隠れて無事に逃げおおせたが、日本においては99%の一般の民間人は避難する余裕も場所もなかった。核の炎で焼かれずに生き延びた者も、おびただしい量の核の灰を吸ってしまっている。この二週間で誰もが臨界的な被曝をしているだろう。かれらの寿命は確実に縮まり先はそう長くない。まして未だに大気には甚大な量の放射性物質が飛散していて地上にもびっしりと降り注いでいる。これまでG7のジャパンと呼ばれた経済大国はもう終わったと言っていいだろう」



「なんでレイカがこんなところにいるの!?元いた世界に帰るって言ったじゃない!」







第10話

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「レイカくんにはがっかりしたよ。彼女はこらえ性が無いというか君と比べると知性が乏しいみたいだ」

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「そんなことなって!レイカは私よりも優しいだけだよ。そよれりレイカは、ちゃんと元の世界に帰れたんだよね」

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「ああ、地上の・・・つまり東京の街に帰ったさ。確認したいのかな?」

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「ああ出来るさ」

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「どうやって?」

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「フフフ…君は友達思いだからどうしても気になるようだね・・・・それでは証拠を見せてあげよう」

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といって老人は杖を軽く振り上げると壁に向かってブンッと振り下げた。すると壁一面に大きな楕円形の24Kはある恐るべき鮮明な画像を浮かび上がらせた。

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「なるほど。何だってその杖で出来るってわけね」

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「ああそうだ。万物の創造および再構成すらも可能な杖だからね。千里眼のようにどんな映像もいかなる角度からも切り取ることなど造作もないことだ」

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映像は暗がりの屋内を写していた。一人の人影が歩いていてそれは、あの廃墟ビルの屋内を歩くレイカの姿だった。あの廃墟ビルの中にしてもいつも異常に暗い気がした。よく見ているうちに、それは砂埃が屋内中に舞っているせいだと気づいた。何処から運ばれてきたのかわからないが、廃墟の床にある残骸などのオブジェクトにもホコリがたまりつもりそして空中にもひしめき合っているのだ。そのせいで屋外からの日光が入りにいくい状況のようだ。

 階段を一階まで降りてきたレイカは小さく咳き込みながら、ビルの玄関口へ向かって塵が積もった床の上を歩いて行った。見通しがわるくてもさすが昼間の日光が照らし混んでいる玄関口の先の外の世界へ向かって彼女はまるで地獄から逃れるように飛び出た。

 空の見える外の世界にでたものの、彼女の辺り一面には廃墟のビル群が取り囲んでいた。レイカはその様子を見て夢でも見ているかのようにしばらく立ちすくんだ。何処を見ても荒廃したビル群や原型が判別つかない何かの倒壊した黒い影が地面を覆っていた。人影は何処にも見えないし気配もまったくない。

 自分が抜け出てきた怪老人の廃墟ビルが霞むほど、周りのどのビル郡も夥しく破壊し尽くされて、半壊もしくは完全に倒壊し黒く煤けた残骸のコンクリートブロックの塊となって、ススと砂煙によっていぶされたかのような不気味は佇まいを帯び、巨大な残階が立ち並ぶすがた、何代かまえに打ち捨てられた墓地に立ち並ぶ傾く墓石のようも見えた。

 レイカはもう一度振り返って自分が出てきた廃墟ビルディングを仰ぎみると、元あった単に劣化した外壁の姿ではなく、なにかとてつもない強烈な熱線で焼かれた後に汚い砂をぶちまけられたような黒く煤けた壁面がされられていた。

 レイカは言葉もなくその場にへたり込んだ。彼女を取り巻く空には風に吹かれながらまとわりつくように砂埃のような微粒子がそこはかなく舞っていた。彼女は口を手で多いながら咳き込んでいたが、治まると天を仰いだ。

 真上には無情の白銀色の雲で覆われ、遠くの空には押し寄せせめぎあうように行き場をなくした黒い雲が周囲一体を取り囲むように何処までも続いていた。遠くから雷鳴の轟が聞こえてきて、その遠くの黒い雲は局所的に地上へ、かなにか衣のように見えるたなびくまるでベールのような黒い雨を天から地へ向かって降らしていた。その雨は通常のシャワーのような癒やしはなく、その禍々しさは遠目でも容易に見て取れた。人知らぬ間に不遇の死を遂げた者たちの無念のままに固まったドス黒い雨が局所的に各地で地上に瀧のような雨をふらせているのだ。


「なんでレイカがこんなところにいるの!?元いた世界に帰るって言ったじゃない!」


「ああ言ったさ。日本にちゃんと帰っただろ。ただし別の次元のつまり異世界の日本だよ。つまり彼女は異世界転生したわけだ。フハハハハッ」


「ふざけないで!!」



「ふざけてなんていないさ。私は確かにさっき言ったはずだよ。『レイカくんは地獄の待つ世界に返ってもらう』と。私は約束を守る男だ」


「騙したのね!」


「だから騙してなんていないよ。彼女自身がどうしてもここには居たくないと駄々をこねて、君を残してでも地獄のような世界のほうがマシだと言った帰っていったんだ。それに彼女の行った世界は、核攻撃されてから二週間後の東京だ。放射能汚染されてはいるが彼女の若さならこれから多少被曝したとしてもそう簡単には死なないよ。それに口でいうよりも、レイカくんには実際の地獄と言うものがどういうものかを体験してもらうほうが良いと思ってね」


「あんたって・・・・本当に頭がイカれてんだね」


「ヨウコくん・・・そんな汚い言葉を軽々しく年上の人間に対して言ってはいけないよ。それに君がレイカくんの為に怒る必要もなかろう。レイカくんは君のことを犠牲にしながら利己的に独りで逃げていったに等しい。私は正直者が損をするようなことを許せないタチでねぇ。彼女はそれ相応の応報を受ける必要があると思ったのだよ。そしてこれを見た君は、無限の多世界を超越するこの私の力に、もっと興味を持つはずだとも思ったのだよ。君は知的好奇心のかたまりだからねぇ」


「好奇心とかの問題じゃないし、これってひどすぎるよ・・・レイカが核戦争後の世界にいるなんて」


「核戦争後の世界というのは少し刺激が強すぎたかもね。しかしわかっただろう?この杖の力を使えば、あらゆる潜在的な可能性のある経過を経た後のいわゆる並行世界に行くことが出来るのだよ。あくまで確率として担保される世界に限られるのだがね」


「どういう意味?」


「君は量子力学の二重スリット実験を知っているかな?」


「量子力学?高校物理はニュートン力学ぐらいまでで知らないけど、シュレディンガーの猫の話だったら知ってる」


「シュレディンガーの猫は有名だね。確かにスリット実験にも少し関係している話だ。量子力学のパラドックスについて問題提起した思考実験だからね」


「難しい話よりレイカを戻しやって!」


「そう慌てなさんな。今からする話を聞けば人間の生活圏の常識が通じない世界が存在していることが分かるだろう。そしてなりよりも君たちの大好きな、オカルトに関係のある話だ。そしてまして聡明なヨウコくんならば、多世界解釈の概念も理解してくれるだろう」


「もしかして・・・あんた昔どっかで教授とかやってたの?」


「いや・・・私はずっとこのビル専属のオーナーだったさ」


「それはわかってるけど科学とかやたら詳しいし、他にも何かやってたんでしょ?」


「私の昔話など聞いてもあくびが出るだけだよ。まぁいまからする説明はすこし長い話になるが、ひとつ聞いてみなさい」


「わかった」



「それじゃ、わかりやすく喩え話で説明しよう。一つの大きな港があって、その港には岸壁から近くに一つ目の防波堤、遠くに二つ目と、二重の防波堤が設置されている。海は波が立たず水面は凪状態だ。その様子を想像してみて欲しい」


「うん」


「二つの防波堤のうち、近くにある方には小さな船が出入り出来るような隙間が二つあり、それはほどよく間隔をあけて作られている。これは二重スリット実験での二つあいたスリットにあたる部分だ。遠くにある外側の防波堤は港全体をコの字型に取り囲んでいて穴は開いていないただの壁だ。イメージはできたかな?」


「だいたいなんとなく」


「よろしい。ではその港の岸壁の中央に立っていて、なにか非常に大きな重い物体を投げ込んで港に一つの大きな波紋を立てるとしよう。するとその半円の波はまず近くの堤防に当たるだろう。そしてそれに開いた二つの狭い隙間から奥の遠くの防波堤に向かって新たな二つの波が現れる。これは波の回折という現象だ。回折現象によって出来た新たなその二つの波は、奥の防波堤に向かって進んでいく。二つの波はぶつかり合い水面に複雑な波紋を作るだろう。これは波の干渉とよばれる現象だ。干渉した際にぶつかり合った高い波同士は強め合い、高い波と低い波が当たるところは、打ち消し合って凪のような波のない状態になる。ここまではわかるかな?」


「まぁなんとなく」


「波はいつか収まっていき凪に戻っていくものだが、この場合波の減衰はなく、その波の振幅が衰えることなく続くと考えて欲しい。最終的に遠くにある防波堤の壁に二つの干渉した波がぶつかることになる。そこにはより強め合った波が当たる場所と、打ち消しあった波のない場所とのコントラストができるよね?」


「うん」


「ここまでは現実世界で当たり前に起こり得る、何も不思議のない現象だよね?しかしここからちょっと話が変わってくる。量子を一つの小さな小舟としてみよう。量子と言っても実験で使われるのは電子だがね。小舟=電子として考えてくれたまえ。港の岸壁から小舟が発進される。AIが搭載されていて近くの防波堤の二つの隙間のどちらかを通り抜けて、遠くの堤防へと向かって行く。そして最終的に遠くの防波堤の壁にぶつかったら、その場所に留まるようにプログラムされている。この時君は、観測者として岸壁に立って港の様子を見ている」



「・・・それで?」


「それでは次に、君は海に背を向けている状態で岸壁に立っていて、君の目には港の様子が見えない状態で小舟を繰り出す実験をすることにする」


「うん」


「小舟はどうなっていると思う?」


「壁にあたって何処かに止まっていると思う」


「その意味は、どの場所かはわからないけどどっかには当たって止まっているということだよね?」老人はされに問いかけた。


「うん普通そうでしょ?」


「しかし君が振り返っても、何処に実際にあたっているかわからないんだ。どちらの隙間を通ったかもわからないのは当然だが、奥側の防波堤の何処の壁に当たったかも確実に言えない状況であることに気づく。その意味を視覚的なイメージで説明すると、船は一隻だけでなく、何重にも連なっていて、それは実態のない幻のようなホログラムのような感じだ。濃いものと薄いものとほぼ透明で見えない像とを、右から左にグラデーションしていて規則正しく繰り返している。君はその小舟の残像のパターンが、先ほど大きな物を投げ入れて水面に作った波が干渉しあって奥の堤防に作った干渉縞と同じであることに気づく」


「え?どういう意味?」


「つまり、君が見ていない時は、小舟は確かに目的である遠くの防波堤に到達しているが、何処に当たったかは場所は特定できないという意味だ。壁に残った小舟の残像群の濃淡はそこに小舟があるべき存在確率の高低を意味している。つまり右端の方のここに当たったかもしれないし、反対側のこの濃い部分に当たったかもしれないという意味だ」


「ちょっと半分まだ言っている意味がわかんないけど、そんなこと現実にありえないよね?」


「そのとおりだ。しかも壁に出来た干渉パターンが意味することは、小舟は手前の防波堤に開いている二つの隙間のどちらか一方を出たのではなく、両方から出て行ったことを意味している。でなくては干渉は起こらないからね」


「一隻の小舟が二箇所から同時に?・・・・え?・・・」


「まぁ意味がわからなくて当然だよ。あえて小舟に例えた話をしたが、実際には一個の電子を二つのスリット穴のあいた壁に向かって撃ちだす実験で起きる現象だ。総じると、君が観測していない場合は電子の振る舞いは確率の波でしか捉えられないがが、観測していれば確実にどちら一方のスリットをぬけて何処に当たったかを弾丸のように点で確定できるという事になる。観測するかしないかで振る舞いが変わるんだ。そして量子は粒と波の性質を両方同時に持っているとも言える」


「それじゃまるで幽霊みたいな・・・」


「ああ確かに君だけでなくこの現象についてそう形容する人もいるよ。ただ幽霊話ではなく、これは1961年に実際に科学実験が行われた現実の話だよ。よくミクロとマクロを同じ土俵で考えてはいけないと物理の世界で云われるものだが、私もつい想像してしまうのだよ。幽霊のようにあそこにいたかと思えばあすこにもいる。すべてがうつろいながら存在しているしていないのか・・・奇妙な世界だよねぇ。本来現実の世界での今という時を切り取った時、そこには一つの可能性しか存在できないものだが、量子力学で語られる世界観というのは、一つのオブジェクトがあればそれが幾重にもさざ波を打ちながら複数同時に共存する世界だ」


「めちゃ難しいんだけど、つまりそれがさっき言ってた多世界解釈っていうこと?」


「さすが君は察しがいいねぇ。そのとおり多世界解釈は物理学会でも提唱されたちゃんとした概念だ。だが残念ながら仮説以上の評価はされていない。それに本気で世界は幾つもの可能性を保持しながら同時に存在しているなんて言える場所があるなら、それは異世界転生物語フリークの掲示板スレットか、精神的閉鎖病棟の中くらいだろう・・・フフフフ」


「確かに異世界沼にハマってコジらせてそんなこと言う奴もいるかもだけど、あんたもすでに十分それに近いこと言ってる気がする・・・・」


「ヨウコくんは手厳しいねぇ。しかし実際にいま君が見ている通り、この世界はその多世界解釈に近い概念で構築されていると考えてよい。または本来は見ることが出来ない多世界をこの杖の力で見せているとも言える。またもっと言えば、別にこの杖がなくとも、君が見ている私が創造した世界を信じるのならば、それだけで確率の波を高めていることと同意だ。つまり見えなくとも、認識できなくとも、現実に存在している世界と変わりなく存在しているということになる」


「はぁ!?」


「実際には存在はしていない。しかし多世界解釈の世界に存在しているのだ。そしてその可能性の世界への扉を開ことを可能にするのがこの杖なのだよ」


「・・・・」ヨウコは無言だったというより絶句していた。


「レイカくんが堕ちていった世界は、つまりその多世界解釈のうちの一つの並行世界だ。ロシアがウクライナに軍事進行して以来、世界中の大勢の人たちが核戦争の危機を現実のものとして危惧していただろう?つまりそういうことさ」


「そ、そんなバカな話・・・・あるわけ」


「まぁ実際に実験を見て説明されたとしても、すぐには理解がついてこないのは当たり前だよ。あのアルベルト・アインシュタインでさえも、そんな世界在り得ない、とずっと否定していたからねぇ。普通に若い女性にこんな話をしても皆ちんぷんかんぷんだとしても当然だよ」


「その力でレイカをあんな目に合わせたということは・・・もしかしてあんたは他にも少女たちを・・・」そういうヨウコの表情に少し歪みが生じていた。


「そんな・・・せっかくの君の美しい顔がだいなしだよ。しかしさすがの君はこの人知を越えた神の如き力の効力をもう理解できてきたようだねぇ。私の目に狂いはなかったようだムフフフ」

つづく
























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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。勉強は得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格。根はやさしいがさばさばしているため性格がきついとクラスメートに思われがち。両親の影響のせいで懐疑派だがオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。両親に大事そだてられていて正確は優しくおっとりしているが、素直すぎてなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも実は苦手だけど痛い目にあっても大して気にしないし見た目より図太い。

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