第11話
文字数 3,529文字
二人の若者が廃墟ビルディングの破れた金網をすり抜けて中へと入って行く。心霊探索系YouTuberキー&ウッシーの姿だった。彼らはすでに過去二度、この場所を訪れている。
「やれやれまたここに来ちまったなぁ」
「どうしたウッシー?テンション低いじゃないかよ」
「だってキー坊、ここは冗談抜きのヤバい場所だってもうわかってるだろ?」
「ああ、わかってるさ」
「前回ここに来た時に五階で見た、明かりの点いてた部屋ってさぁ、後からよく考えてみれば位置的にビルの外壁の向こう側だったんだぜ。つまりその向こうは空気があるだけのただの外のスペースだよ。アップロードした動画は瞬発的にバズったまではよかったが、結果は「釣りのヤラセ動画」って云われる始末さ。おまけでおれのXwitterアカウントでやった説明は日に油を注いだだけで今もプチ炎上しっぱなしだし」
「まぁね。だから今回は動画抜きで来てるんだよ」
「てかもうここは忘れた方が良くないか?触れないでいればそのうち時間が解決ってわけで、みんな忘れるしさ。それよりも最近もらった情報にあった、小田原の山奥にある旧家の豪邸の廃墟とかよくない?そこって90年代に撮影されたあるホラー映画のロケで使われた場所らしくてさ、その時の映像の中で幽霊が実際に映ってしまったっていう曰くつきなところらしいよ。よっぽどそっちに行ったほうが、撮れ高があると思うんだけどなぁ」
「それは確かにそうかもしれない。だがそれは後々行くとしてさ、やっぱりこのビルは他の何にも代えがたい特別な場所だよ。あのとき五階で見てしまったものは、僕たちにとって強烈な出来事だった。あれは実際にこの目で見た、本物の超自然的現象じゃないかと思うんだ。しかしあまりに強烈で、かつ現実的だったし、なによりもまったく予想してなかったから、あの場でリアルタイムに起きてることを理解することができなかった。そして結局は、あの自称ビルのオーナーと名乗る謎の老人にペースを握られてて、結果はヒヨって逃げ帰ったわけだけど」
「まぁおれも正直ビビったよ。でもあれが幽霊とは思えないんだよね。現実にありえない存在を見たのは確かなんたけど、今もたまにあの爺さんの嫌な笑い方が、リアルに蘇ってくるんだ」
「僕もだよ。あの老人の鋭い眼光と、床に横たわった震える少女の姿が脳裏から離れないんだ。俺たち3年前、エンタメ以前に純粋に超常現象を追求したい気持ちが意気投合して結成したんだよ。だからここで見たことの真偽を確認しなければ、怪異シーカーはもう名乗れない気がするんだよ」
「確かにそうかもな・・・。キー坊、お前の気持ちと決意の硬さはわかったよ。それじゃ、気合入れてもう一階行ってみっか」
「よし!行こう」
二人若者は、怪異シーカーとしての決意を新たに、廃墟ビルの五階へと階段を上っていった。廃墟の中に彼ら以外に人は誰もいない。廃墟特有のホコリとかび臭い匂いが漂う以外に変わった所のない虚ろな空間だ。静まりきった中、二人は特になんの問題もなく五階フロアまで辿り着いた。
「ここだ。この壁のこの辺だよ」キーが壁の前に立って入り口のあった辺りを指で指し示した。
「うーん・・・たしかに。だが当たり前だけどこれはビルの外壁だから入り口なんてあるわけないって」腕組みしながら壁を見つめるウッシー気のない声でそれに答えた。
「そりゃそうだ。あのとき見たものは、僕らの気の迷いって言ったとしても、あの映像にはこの先に広い部屋が映ってるからね」キーはウッシーの顔をみながら言った。
「視聴者にあの動画は、意図的にCG加工したフェイクだって思われてる。完全に本物なんだけどな。でもいったいどう説明すればいいんだろうな」ウッシーは両手を広げてお手上げと言った様子だ。
「偽物と言われようが、今回は映像という本物の証拠が残ってる。でもなによりも僕たち二人の自分の目を信じようぜ」
「それじゃまずはどうする?」
「一応今回はいろいろ持ってきたよ。電磁波測定器と放射能測定器そしてサーモグラフィカメラも」と言ってキーは、自分のバックパックを開けて中から機器を取り出し始めた。
「できることは全部やってみるってわけか。さすがキー坊!用意がいいな」といって、ウッシーも手伝いを始めた。
「壁際にサーモグラディをおいて・・・・よし、これで設置完了だ。ウッシーはガイガーカウンターを持ってくれ。俺は電磁波を測定してみる」
「OK!まかしてくれ」
二人はそれぞれ何か機械を持ちながら、部屋の中を移動して何かを測り始めた。壁の前でも丹念に機械をかざして注意深く見ていたが、期待した感じではなかったようだ。
「特に異常はない・・・正常だ」
「放射能も正常値だよ。サーモグラフィはどうだ?」ウッシーが床におかれたモニターのある大きめの機器を見ながらキーに尋ねる。
「うーん・・・特に温度に変化はない。外壁だからかなり冷えてるけど、通常範囲の状態だと思う」
「打つ手なしか」
「そうだね・・・・いやでもこの前見たものが心霊現象でなくて物理現象であるなら、何かトリックがあるかもしれない」
「トリック?」
「ああ、物理的なトリックなのか、または心理的に虚を突くような仕掛けなのかわからないけど、何かある気がするんだ」
「なるほどそういう意味か。うーむ、むむむ・・・・」
「壁に何か小さな異変でもいい。何かないか?」
「いや、俺の目には・・・古びたただの壁にしか見えないなぁ」
「だね。残念ながらトリックとか特にさそうだ。みたところなんの変哲もない、人に放置されて長い時間が経過しただけの傷んだコンクリートの壁だ・・・」
「そうだなぁ・・・・キー坊言ういうとおりトリックだとして、デカイ鏡とかプロフェクトマッピングとか、そういうワードが頭に浮かんだけど、そういう装置も特に無いね」
「トリックじゃなくて、仮にあれが本物の奇跡か何かだったとしたなら、何か痕跡の残されているかもしれない」といいながら、キーは入り口があった場所に顔を近づけてじっくりと調べ始めた。
「痕跡?」とその背後でウッシーが尋ねた。
「ああ例えば、奇跡といえばキリスト教の聖書に出てくる奇蹟だけど、必ず印やスティグマとか云われる烙印があったりするんだ。だからこの壁にも何かあるかもしれないと思って」
「なるほど痕跡かぁ。さすがキー坊は俺と違って、いろいろ知ってるな」と言ってウッシーも膝を床に付いて、四つん這いの姿勢になって床や壁の下方面に眼を近づけて観察し始めた。
そして右手の掌を壁に手を当てていると、ウッシーは異変に気づいた。
「あれ!?おい!これを見てくれ」
「どうしたウッシー?」
「あれ?・・・・おかしいな」
「どうした?」
「いや・・・・いま俺の手が壁を突き抜けた気がしたんだよ。でも気のせいなのかな?やっぱり壁が立ちふさがってるだけだ」
「どれどれ・・・・この辺りか?」とキーも膝まづいて、自分の手を壁に掛けた。
「そうその辺りだ」そう言ってウッシーが頷く。
言われた場所の壁に左手を付いたキーも、壁からの押し返される反作用を感じることなく、一瞬自分の手がするりと壁に吸い込まれるような感覚に陥った。
「すり抜けた!だけどすぐに壁の感触戻ってきて、押し戻された感じだ」
「だよな!一瞬すり抜けただろ?」
「ああ、だがどういうわけだ?」
「よくわからないけど、信念は壁すらも突き抜けるってことじゃないのか!?」
「そんなバカなことがあるわけ・・・だがもし、ここで見たあれが超常現象だったすれば、ウッシーの言うとおり念ずれば見えざる扉が開かれる、ってこともワンチャンあり得る。よし!それじゃ今度は、二人同時に壁に手をおいて押してみないか?」
「OK!」とウッシーは頷いた。
二人は息を合わせるように協調しながら両の手を壁に手をおいて、4つの手で扉を開けるように体重を乗せて押していった。するとどういうことか、彼らの体は壁の中へ吸い込まれるようにその反対側へと軽々と侵入していった。
「うわあぁぁ!!」キーが大きな声を上げる。
「んだあっ!?」ウッシーも共に大きく声叫んでいた。
視界が真白になり、意識を失って目覚めたような感覚があり、彼ら自身が自分たちの身に起きたことがしばし理解できないようすで部屋の中をしばらく見渡していたが、奥に見覚えのある姿、白髪で白い顎鬚をたっぷり蓄えた男が立っているのを確認すると、彼らが期待していた場所だと気づいて少し安心を覚えたようだ。
「バカな!どうして君たちが!?」まるで幽霊のように壁を通り抜けて現れた二人の若者、キー&ウッシーを見た、老人は驚いて声を上げる。その顔に見覚えがあると気づいて動揺を隠せないようようすだ。
つづく
「やれやれまたここに来ちまったなぁ」
「どうしたウッシー?テンション低いじゃないかよ」
「だってキー坊、ここは冗談抜きのヤバい場所だってもうわかってるだろ?」
「ああ、わかってるさ」
「前回ここに来た時に五階で見た、明かりの点いてた部屋ってさぁ、後からよく考えてみれば位置的にビルの外壁の向こう側だったんだぜ。つまりその向こうは空気があるだけのただの外のスペースだよ。アップロードした動画は瞬発的にバズったまではよかったが、結果は「釣りのヤラセ動画」って云われる始末さ。おまけでおれのXwitterアカウントでやった説明は日に油を注いだだけで今もプチ炎上しっぱなしだし」
「まぁね。だから今回は動画抜きで来てるんだよ」
「てかもうここは忘れた方が良くないか?触れないでいればそのうち時間が解決ってわけで、みんな忘れるしさ。それよりも最近もらった情報にあった、小田原の山奥にある旧家の豪邸の廃墟とかよくない?そこって90年代に撮影されたあるホラー映画のロケで使われた場所らしくてさ、その時の映像の中で幽霊が実際に映ってしまったっていう曰くつきなところらしいよ。よっぽどそっちに行ったほうが、撮れ高があると思うんだけどなぁ」
「それは確かにそうかもしれない。だがそれは後々行くとしてさ、やっぱりこのビルは他の何にも代えがたい特別な場所だよ。あのとき五階で見てしまったものは、僕たちにとって強烈な出来事だった。あれは実際にこの目で見た、本物の超自然的現象じゃないかと思うんだ。しかしあまりに強烈で、かつ現実的だったし、なによりもまったく予想してなかったから、あの場でリアルタイムに起きてることを理解することができなかった。そして結局は、あの自称ビルのオーナーと名乗る謎の老人にペースを握られてて、結果はヒヨって逃げ帰ったわけだけど」
「まぁおれも正直ビビったよ。でもあれが幽霊とは思えないんだよね。現実にありえない存在を見たのは確かなんたけど、今もたまにあの爺さんの嫌な笑い方が、リアルに蘇ってくるんだ」
「僕もだよ。あの老人の鋭い眼光と、床に横たわった震える少女の姿が脳裏から離れないんだ。俺たち3年前、エンタメ以前に純粋に超常現象を追求したい気持ちが意気投合して結成したんだよ。だからここで見たことの真偽を確認しなければ、怪異シーカーはもう名乗れない気がするんだよ」
「確かにそうかもな・・・。キー坊、お前の気持ちと決意の硬さはわかったよ。それじゃ、気合入れてもう一階行ってみっか」
「よし!行こう」
二人若者は、怪異シーカーとしての決意を新たに、廃墟ビルの五階へと階段を上っていった。廃墟の中に彼ら以外に人は誰もいない。廃墟特有のホコリとかび臭い匂いが漂う以外に変わった所のない虚ろな空間だ。静まりきった中、二人は特になんの問題もなく五階フロアまで辿り着いた。
「ここだ。この壁のこの辺だよ」キーが壁の前に立って入り口のあった辺りを指で指し示した。
「うーん・・・たしかに。だが当たり前だけどこれはビルの外壁だから入り口なんてあるわけないって」腕組みしながら壁を見つめるウッシー気のない声でそれに答えた。
「そりゃそうだ。あのとき見たものは、僕らの気の迷いって言ったとしても、あの映像にはこの先に広い部屋が映ってるからね」キーはウッシーの顔をみながら言った。
「視聴者にあの動画は、意図的にCG加工したフェイクだって思われてる。完全に本物なんだけどな。でもいったいどう説明すればいいんだろうな」ウッシーは両手を広げてお手上げと言った様子だ。
「偽物と言われようが、今回は映像という本物の証拠が残ってる。でもなによりも僕たち二人の自分の目を信じようぜ」
「それじゃまずはどうする?」
「一応今回はいろいろ持ってきたよ。電磁波測定器と放射能測定器そしてサーモグラフィカメラも」と言ってキーは、自分のバックパックを開けて中から機器を取り出し始めた。
「できることは全部やってみるってわけか。さすがキー坊!用意がいいな」といって、ウッシーも手伝いを始めた。
「壁際にサーモグラディをおいて・・・・よし、これで設置完了だ。ウッシーはガイガーカウンターを持ってくれ。俺は電磁波を測定してみる」
「OK!まかしてくれ」
二人はそれぞれ何か機械を持ちながら、部屋の中を移動して何かを測り始めた。壁の前でも丹念に機械をかざして注意深く見ていたが、期待した感じではなかったようだ。
「特に異常はない・・・正常だ」
「放射能も正常値だよ。サーモグラフィはどうだ?」ウッシーが床におかれたモニターのある大きめの機器を見ながらキーに尋ねる。
「うーん・・・特に温度に変化はない。外壁だからかなり冷えてるけど、通常範囲の状態だと思う」
「打つ手なしか」
「そうだね・・・・いやでもこの前見たものが心霊現象でなくて物理現象であるなら、何かトリックがあるかもしれない」
「トリック?」
「ああ、物理的なトリックなのか、または心理的に虚を突くような仕掛けなのかわからないけど、何かある気がするんだ」
「なるほどそういう意味か。うーむ、むむむ・・・・」
「壁に何か小さな異変でもいい。何かないか?」
「いや、俺の目には・・・古びたただの壁にしか見えないなぁ」
「だね。残念ながらトリックとか特にさそうだ。みたところなんの変哲もない、人に放置されて長い時間が経過しただけの傷んだコンクリートの壁だ・・・」
「そうだなぁ・・・・キー坊言ういうとおりトリックだとして、デカイ鏡とかプロフェクトマッピングとか、そういうワードが頭に浮かんだけど、そういう装置も特に無いね」
「トリックじゃなくて、仮にあれが本物の奇跡か何かだったとしたなら、何か痕跡の残されているかもしれない」といいながら、キーは入り口があった場所に顔を近づけてじっくりと調べ始めた。
「痕跡?」とその背後でウッシーが尋ねた。
「ああ例えば、奇跡といえばキリスト教の聖書に出てくる奇蹟だけど、必ず印やスティグマとか云われる烙印があったりするんだ。だからこの壁にも何かあるかもしれないと思って」
「なるほど痕跡かぁ。さすがキー坊は俺と違って、いろいろ知ってるな」と言ってウッシーも膝を床に付いて、四つん這いの姿勢になって床や壁の下方面に眼を近づけて観察し始めた。
そして右手の掌を壁に手を当てていると、ウッシーは異変に気づいた。
「あれ!?おい!これを見てくれ」
「どうしたウッシー?」
「あれ?・・・・おかしいな」
「どうした?」
「いや・・・・いま俺の手が壁を突き抜けた気がしたんだよ。でも気のせいなのかな?やっぱり壁が立ちふさがってるだけだ」
「どれどれ・・・・この辺りか?」とキーも膝まづいて、自分の手を壁に掛けた。
「そうその辺りだ」そう言ってウッシーが頷く。
言われた場所の壁に左手を付いたキーも、壁からの押し返される反作用を感じることなく、一瞬自分の手がするりと壁に吸い込まれるような感覚に陥った。
「すり抜けた!だけどすぐに壁の感触戻ってきて、押し戻された感じだ」
「だよな!一瞬すり抜けただろ?」
「ああ、だがどういうわけだ?」
「よくわからないけど、信念は壁すらも突き抜けるってことじゃないのか!?」
「そんなバカなことがあるわけ・・・だがもし、ここで見たあれが超常現象だったすれば、ウッシーの言うとおり念ずれば見えざる扉が開かれる、ってこともワンチャンあり得る。よし!それじゃ今度は、二人同時に壁に手をおいて押してみないか?」
「OK!」とウッシーは頷いた。
二人は息を合わせるように協調しながら両の手を壁に手をおいて、4つの手で扉を開けるように体重を乗せて押していった。するとどういうことか、彼らの体は壁の中へ吸い込まれるようにその反対側へと軽々と侵入していった。
「うわあぁぁ!!」キーが大きな声を上げる。
「んだあっ!?」ウッシーも共に大きく声叫んでいた。
視界が真白になり、意識を失って目覚めたような感覚があり、彼ら自身が自分たちの身に起きたことがしばし理解できないようすで部屋の中をしばらく見渡していたが、奥に見覚えのある姿、白髪で白い顎鬚をたっぷり蓄えた男が立っているのを確認すると、彼らが期待していた場所だと気づいて少し安心を覚えたようだ。
「バカな!どうして君たちが!?」まるで幽霊のように壁を通り抜けて現れた二人の若者、キー&ウッシーを見た、老人は驚いて声を上げる。その顔に見覚えがあると気づいて動揺を隠せないようようすだ。
つづく