その6

文字数 577文字

 車で走りながら、ユキが今夜のホテルを予約していないか、気掛かりだった。
 夜遅くに待合わせをしたのは意図があってのことではなかったが、ユキにその気がなければ、前もってホテルを予約しているはずだと思った。
 僕は徳島市街地をあてもなく走りながら、ユキがいつそのことを言うかひやひやしていた。
 市街地を外れ、郊外をしばらく走るとモーテルの看板が目立つようになった。
 いくつかのモーテルを通りすぎながら、僕はユキが今夜を共にする覚悟でいることを確信した。
 僕は前方にモーテルの明かりが見えるところに車を止めて、しばらく躊躇した後、意を決し、
「いいかい、入るよ」
 と促すと、ユキは小さく肯いた。


 その夜、僕はユキをはじめて抱いた。
 大学の時狂おしく恋焦がれたユキとは、一度も結ばれぬまま別れてしまったが、些細なことがきっかけで再会し、しかもあっさりと一夜を共にできたことが不思議だった。
 僕は静かな寝息を立てて眠るユキの寝顔をいつまでも愛しく見つめていた。
 朝方目が覚めた僕は夢でなかったことに安堵し、まだ夜が明けきらないうちに、もういちどユキを確かめるように抱いた。
 その頃の僕には、地元に付き合って二年になる彼女がいた。
 しかし、心のどこかにユキにもう一度会いたいという思いがくすぶり続けていたのである。
 結局この日を境に二人の女と同時に付き合うことになった。

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