その8

文字数 566文字

 一ヶ月振りにユキとまた徳島市内であった。
 ユキの実家からだと、フェリー便の関係で徳島が来やすいため、徳島市内で会うことが多かった。
 しばらく徳島の市街地を車で走っている時、
「まだこないの」
 とユキがか細い声で俯きがちに言った。
 僕は瞬間意味を解せず、
「えっ、なに?」
 と聞き返した。
「今月予定日が過ぎているのに、生理がこないの」
 とユキは、僕の顔を少し恥ずかしげに見た。
「ええっ、ホントウかい?」
 と僕はうろたえて、ユキの顔を見返した。
「ホントウなの」
 どうやら冗談ではないことが、ユキの表情からわかる。
 僕はその瞬間、これはえらいことになったと思いつつ、自分の子供が出きたという薄気味悪さを覚えた。
 その後しばらく車で走りながら、田舎の彼女が薬局勤めをしている関係で、産婦人科へ行かなくても、妊娠しているかどうかを調べるものが、薬局にあると聞いていたことを思い出した。
「ユキちゃん、薬局に妊娠しているかどうかを調べるものがあるらしいけど、試してみる?」
 と僕が促すと、ユキも素直にしたがった。
 通りすがりの薬局で買い、店から出てきた時、
「けどワタシ、出来ていたら産みたいな」
 とユキが僕の反応を探るように言った。
「そうやね、出来ていたらしょうがないもんね」
 と心にもないことを言った。
 その瞬間、ユキの表情が緩んだように見えた。

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