その16

文字数 430文字

 僕はユキと別れた直後に田舎の彼女と結納をし、翌年の春に結婚をした。
 その後ユキとは一度も会っていない。
 結婚後半年を過ぎた頃、一度酔っ払ってユキの実家に電話をしたとき、たまたまユキが出たが、突然外から帰った妻にばれて、妻が電話口に出て切ってしまった。
 それ以来電話をかけたことがない。
 しかし、どうしてもユキへの未練が断ち切れず、五年経った頃に、妻の留守中ユキの実家に電話をした。
 その時電話口に出たユキの母親から、
「アノコは、もうこの家にはいませんし、連絡も取れません」
 と不機嫌な感じで言われ、電話を切られたことがある。
 その後、ユキのことを思った。
 あの妻子ある男を奪って、どこかで暮らしているのか?
 それとも家出同然に別の男と出ていったのか?
 いずれにしろ母親の様子からは普通に結婚して、平凡に暮らしているとは思えない。
 もう再びユキと会えないと思うと、最後の駅で別れたときの淋しげな横顔が、余計に薄幸なユキの行く末を暗示するようで切なかった。


(了)
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