その5

文字数 679文字

 道路標識が徳島市内に入ったことを示した。
 時間は二十時に十分前である。
 自宅を十一時前に出て、途中食事に休憩しただけで、後はひたすら運転した。
 道中、ユキとの苦い最後の場面も思い出したが、現金なもので惚れていた女にまた会えると思えば心が弾んでいるのである。
 国鉄徳島駅に着くと、すぐにユキを見つけた。
 ユキのそばにいる若い女が何やらユキと立話をしている。
 瞬間僕は、大学時代のことを思いだし、(なんだ、また連れがいるのか)と、落胆しながら近づいて行った。
「カレしぃ、カノジョな、さっきまで、変なおっさんに口説かれていたのよ」
 若い女は、どうやら変なおじさんからユキをガードしていてくれたらしい。
 僕達は、若い女に礼を言って、車に乗った。
「待ったんじゃない?」
「いや、それほどでも」
 僕はユキが以前より化粧も濃くなり全体的に派手になっていると感じた。
 僕達は市内のファミレスに入り、遅い夕食をとることにした。
「ホントウに久しぶりやね、仕事の方順調にいきよる?」
「おかげさまで……、吉見君も市役所の仕事大変でしょう。今何課にいてるの?」
「教育委員会の学校教育課で、偉そうな教師の相手をさせられよう。しかしまさかこうやって、もう一度ユキちゃんと会えるとは思わなかったから、うれしいよ」
「そうね、ワタシも」
「もうどれくらい経ったんかね……。ええっと、かれこれ五年になるんかぁ、早いもんやねぇ」
「そんなになるかしら」
 僕は最後に会ったときのよそよそしかったユキからまた以前のユキになっていたことが嬉しかった。
 僕達は二時間ほどゆっくりと思い出話をしながら食事をした。

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