scene11 謝礼の洗濯の選択はシャレにならない

文字数 1,778文字

 食事を終えた二人のお茶とのまったりタイムは続いている。

 室内とはいえ窓や障子を全開にした居間には、夏特有の開放感さえある。

 そんなものに後押ししてもらわないと、初めて会った女の子と二人でこんな長い時間なんて過ごせないし。

 縁側から夏草の香りが運ばれてくると山本さんは
「気持ちの良い風ですね」
 と、目を細めた。

 僕もこの家が気に入っているので心地よさそうに過ごしてもらっているのを見て悪い気はしない。

「そうですね。狭いですけど庭もありますし木もあるんで過ごしやすいんだと思います」

 山本さんは会話を続けてくれる。

「ゆーとさんは明日から学校ですか」

「そうですね。今日で夏休みは終わりです。山本さんも明日からですか」

「はいっ。とても楽しみです。たくさん友達が欲しいです」
 山本さんはきらきらした表情をする。

「ふむ。山本さんなら、きっとすぐにたくさん友達できますよ」

「日本の高校生活、わくわくします」

 山本さんがちゃぶ台の上の食器を寄せる。

「あ、ありがとうございます。でも、これくらいは僕がしますから休んでいてください」

「いえ、わたしがしますから」

「だめです。食事は作ってもらったので、食器洗いは僕の当番ということで行きましょう」
 と、僕はその食器をお盆に乗せ台所へと運ぶ。

 背後からもカチャカチャと音がして、山本さんも続いて食器を持ってきてくれた。

「僕がしますから良いですよ。でも、ありがとうございます。せっかくなので、そこに置いてもらえますか」

「わかりました。ここに置きますね。では食器洗いはお願いいたします」

 食器を置いた山本さんは居間へと戻った。

 僕はスポンジを手に取り洗剤を馴染ませると、少しだけ大きな声をだす。
「あと、洗濯なのですが、それも僕の当番ということで」

「いや、食器洗いがゆーとさんなので、そういうわけには」

「でも、まとめて洗った方が経済的なので嫌でなければ僕にさせて下さい」

「わたしがしますよ?」

「いえ、僕がしますって」
 気づくと山本さんはまた背後までやって来ていた。

「山本さん?」

「ゆーとさんは、その、どうして洗濯を?」

 そんなのは決まっている。

「え?だって食事を三食お願いするのであれば、それに見合う役割がないと公平でないと言うか……」
「こーへー?」
「平等でないと言うか」
「びょーどー?」
「フェアでないと言うか」
「フェア?」
「……いや、流石にフェアはわかりますよね?」

 口に右手をあて、山本さんは赤い顔で何やらもじもじしている。

 あ、そういえば。

「そうですよね、すみません。あの……、その……、トイレなら台所を出て隣です。ちなみにその先の、山本さんの部屋の向かいあたりが、洗面所とお風呂です」

「……ありがとうございます。そのうち使わせてもらいますが……今は平気です」
 山本さんの顔が更に赤くなる。

 ……失敗。もう少し言い方あったよな。

「ゆーとさん、そうではなくて、お洗濯のお話しなのですが」

「洗濯?」

「はい。洗濯の話です。やっぱり、その、ゆーとさんは高校生な訳で」

「ふむ。僕は確かに高校生です」
 高校生だって炊事をするし洗濯だってする。

「ゆーとさんは、あの、ひょっとして、そんなに洗濯当番を……」
 赤い顔をした山本さんが近づいてきて細い声をだす。
「……洗濯にこだわるのは、実は興味があるからなのでしょうか?」
 山本さん?

「……高校生男子とはそう言うものだと聞きますし」
 山本さん?

「……お世話になりますので、こういう謝礼の形もあるのかもしれませんが」
 山本さん?

「でしたら、そのもう少し待って下さると……」
 山本さん?

「その……、お見せできるような、ちゃんとした下着を買ってきますので」

 ぼっ!
 僕の顔からも火が出た。

 下しか向けない二人は、既にいろいろ燃え尽きていた。

 ちりん、と風鈴の音がより大きく聞こえた。

 うん、洗濯は山本さんにお願いしよう。





 ……いくら夏でもそこまで解放できない十五の夜です。
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